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タイトル: 紅花林
名義 : 紅花林
出版社 : HÖUREN
出版コード : MIMI-011
構成 : 全11曲分

野田真弘氏の企画で、1991年制作を開始。95年に 完成したが諸事情により発表は2001年12月まで遅れた。

この作品は筆者のマルチ・トラック・レコーディング・ シリーズとしては、AFTER DINNER、少年ナイフに続く大きなプロジェクトであり、演奏指導、楽器改良編曲、楽曲補作、エモーション・コントロール、録音制作に至るフル・プロデュース作品である。

このプロジェクトの為に新規に設計製作されたハード・ウェアも演奏用途のものからミックス/マスタリングに至るまで多数を開発実用化し、その効果は十分に発揮されている。この技術的革新により通常の2チャンネル・ステレオ再生に対応していながら、高度のスピーカー外定位や異常なまでの解像度を実現しているが、これらは音楽の深層にオーディエンスの精神を引き込むという統一単純化された目的に沿ったものである。評論・コメント等に関しては、確認できているものについては「紅花林」サイトに掲載されている。

このCDで私が打ち出した制作方針は、このカタログに掲載の他作に見られる心理的、脳生理的テクノロジー(エントロピー論として仮説を展開しているが、美学系評論家や脳生理学者によれば時間論なのだそうだ。)の応用とはやや傾向が異なり、録音制作そのもののテクノロジーの未来型に重点が置かれていることである。

このアルバムから採用したそれら技法は、具体的には楽器収音の手法として超々微弱収音とオープンセット収音された信号のコヒーレント混合(例えばこのアルバムのエレキ・ベース・ギター音の多くはギターアンプもDI等の全ての電気的結合は使用せず、大型ダイアフラムのコンデンサーマイクと専用の超低雑音マイクアンプの組合せによる直接収音を行っている。)や、各トラック(各楽器音)毎に、PANによるL/Rチャンネル間の音量差情報のみならず、位相差、時差、個別の空間情報としての固有反射情報を付加しミキシングを成立させるなどの極めて先進的な手法を独自開発し採用している。

これらの技術のいくつかは録音制作中から大きな話題となり、前者の収音技法は関わった録音エンジニアの1人が自分のサイトで公開したところ、海外からの問い合わせがすぐに殺到、そのうちの何人かと提携するなど何かと論議の種となっている。

後者の未来型ミキシングは紛れもなくDSP技術なのであるが、同時に作成出来る反射波は最大3600波を超えその内240波には自由に名前が付けられZ軸管理ができ、しかも12の独立した出力に任意の位相差を持って出力可能という、音造りの常識を遥かに凌駕する物量と内容である。

これらの反射波の作成は単なるイマジネーションでセットアップされるものではなく、その音源や演奏者が存在すると仮定される空間の建築図面から計算される反射パターンなのであるが、従来のホール建築などで用いられている手法と異なる点は演奏中に建物自体が変形してゆくことであろう。それゆえいわゆる「霧の中のような」、「抽象的な」リバーブはほとんど使用されず、独特のサウンドの特徴となっている。

予想されてはいたが、これだけの強力なハードウェアと論理の投入をもってしても自分の聴覚を満足させることはできず、多くの楽曲では現実のホール、建築物などの空間にメンバーや機材とともに出向き録音を行い、スタジオのMTRと同期させ使用している。同時に定型的ミキシング・バランスやフェードイン/フェードアウトなどという根拠不明瞭な技法も徹底的に排除されている。

紅花林のメンバーのほとんどは工学部出身者で構成されているが、もし純粋に音楽系出身者の団体であったなら、このアルバムは完成しなかったかもしれない。

2002年 宇都宮 泰