簡易なカウント数からシーベルトへの換算 (2011_05_01版)
(詳しくは専門書籍にゆずる)
(記述の誤りやお気づきの点は、ぜひご指摘下さい) ©Y.Utsunomia 2011
シーベルトは物質(生体)への吸収線量で、単に放射線の強さを表すわけではなく(とはいえ吸収線量は放射線の強度に比例する)、生体にどれくらい吸収(被ばく)したかをあらわすために、線量に一定の係数を乗じた「線量当量」である。
またこの物理量を表す単位系にはCGS単位系と現行のSI単位系があり、レム、レントゲン、ラドは前者CGS単位系、グレイ、シーベルト、は後者である。ガイガーカウンターの測定結果であるカウント/毎分(CPM)はどちらでもない。
さらに問題は線種(α、β、γなど)によっても異なることで、体外からの被ばくに関してはα線は無視し、βとγについて計算する。
(ただし体内被曝についてはα線の有害性はきわめて高く、この計算はまったく当てはまらない・・・α線の場合、20倍する・・・1シーベルト=WR×1グレイで、β線とγ線ではWR=1、α線ではWR=20の意味、中性子線ではWR=10)
α線まで検出できるマイカ窓のガイガーミュラー管が人気だが、このことから考えてみると、ある程度は線種を分離して計数する必要があると思われる。β、γ線はSbM20のような比較的感度の高い金属管で、α線はそれとは異なる方法(現在挑戦中)で検出し、別個に計測すべきであると思う。
(しかしガイガー管による計測は、本来はこのような解析に主目的があるわけではなく、なんか分からんが、ヤバイ・・ことを定性的に知覚するためにあるとも言える)
「ガイガー/ミュラー管の感度」
ガイガー管の感度は生体の吸収量とは無関係に、一定の放射線の強度であるmR/h(ミリレントゲン/毎時、一般にγ線感度。γ線が使用される理由の一つは、γ線が電磁波であり、距離と強度の関係が明らかだからだ。β線やα線は「物質」の放射であり、由来による強度の変化が極めて大きい)で表される単位線量を照射したときのカウント数で表される。データシートで公表されているいくつかの機種のデータを列記してみる。
SbM20(旧ソビエト製)
22cps/mR/h 60Co 毎分では22×60=1320cpm/mR/h
29cps/mR/h 226Ra 毎分では29×60=1740cpm/mR/h
LND712(アメリカ製)
18cps/mR/h 137Cs 毎分では18×60=1080cpm/mR/h
この数値の意味は、最上段、コバルト60から毎時1ミリレントゲンの強度のγ線をSbM20に照射したときに、毎秒22カウントすることを表している。
同じγ線の単位線量であるにも関わらず、線源の物質によってカウント数が異なる性質がある。(60Co=コバルト60、226Ra=ラジウム226、137Cs=セシウム137)
1(ミリ・レントゲン[mR])=8.77(マイクロ・グレイ[μGy])=8.77(マイクロ・シーベルト[μSv]上記のウエイトとして) で換算されるので、1μSv/hは
SbM20では
1320÷8.77=150.51cpm(=1μSv/h)(コバルト60)
1740÷8,77=198.40cpm(=1μSv/h)(ラジウム226)
LND712
1080÷8.77=123.14cpm(=1μSv/h)(セシウム137)
つまりコバルト60線源、毎時1マイクロシーベルトのときに、SbM20 は毎分150カウントする、という意味。
線源によって測定値が変わることも問題だが、γ線の場合は、線源からの距離の2乗に反比例するので、線源から離れるとさっぱり検出できないことも意味する。
(これはβ線、α線ではもっと大きく減衰する性質がある。)
一般的にはカウント数を上記のデータで割るとシーベルトが得られるように、「係数」として扱う。
SbM20
Y μSv=X cpm・0.00664 Co60
Y μSv=X cpm・0.00504 Ra226
LND712
Y μSv=X cpm・0.00812 Cs137
このように線源によっても、線源からの距離によっても数値は大幅に変化し、しかも実際の線源の種類はほとんどの場合が不明なので、「線量当量」に換算することにあまりこだわらない方がよさそう。あくまで目安とすべきで、記録としての正確さからは、単に単位時間当たりのカウント数、あるいは単位カウント数(例えば1000カウント)に要する時間を計り、バックグラウンドとの比較を行うことが実用的ではないだろうか。
繰り返しになるが、線源(放射性物質)からの距離が大きいと非常に不正確な計測になります。空気の場合にはポンプなどで紙などに埃を吸着し、その紙を測定します。
実際にSbM20を搭載している海外メーカーの製品でも100cpm=1μSvとしているものもあるくらいだ(少なめに表示するよりも、+50%程度なら多めの表示の方がより安全という意味なのだろう。
「動作範囲」
管にはそれぞれ測定可能な動作線量範囲上限がある。これも線源の物質(機構)によってバラツキがあるが、上限はSbM20では144mR/h、LND712では500mR/h、ガラス管のCI-3BGでは900mR/h、秋月電子のキット搭載のD3372では10000mR/h(いずれもγ線として)。
そこから下へ10の4乗程度がダイナミックレンジとなる。このことからSbM20が如何に高感度管か理解できるし、秋月のキットのカウント数が低いことも納得できる。ただしそのダイナミックレンジをフルに引き出すことは容易ではない。
「定確度計測」
PICやAVRを使用せずに、できるだけハードウェアの工作の難易度を上げず、機能と精度を充実させようとすると、一定の工夫が必要となる(PICやAVRを使用しない理由は本編を参照)。
ガイガーミュラー管を用いたカウント計測では、一定幅、一定波高のパルス列頻度計測なので、確率的統計確度で定性→定量変換しなければならない。
そもそもガイガー管入射のカウントは一定ではなく、一定のガウス分布の中でランダマイズ(乱数変調)されたデータで、観測者が知りたいのはガウス分布のピークだ。無限に多くのパルスを計測すれば、そのピークを確定することは容易だが、限られた数のパルスの頻度からガウスピークを推計すると、一定の誤差が生じる。観測者はこの誤差(逆に言えば正確さまたは確度)を把握しておかなければならない。
この確度は「どれくらい長く観測したか」ではなく、「何発のパルスを得たか」で決まり、カウント数をCとするとCの-1/2乗で表される。つまり10個のパルスを観測し入射平均値や線量当量を求めた場合、10の-1/2乗なので0.316=誤差31.6%、100個のパルスでは、100の-1/2乗なので0.1=10%、1000では0.0316=3.16%、10000では1%となる。
一般的なガイガーカウンターでは、「1分間に何カウントしたか」のように扱われるが、低頻度(低被ばくあるいはバックグラウンド付近)では確度が悪化し、高頻度(高被ばく)の場合は確度も高まるという具合の悪さだ。測定時間が定まらない不便さはあるが、一定のカウント数に達する時間の計測ではこのような確度不安定は無い。
毎分のカウント数のプロットでは波形の上下動が大きいが、定カウント時間測定(定確度測定)では、ある程度波の上下動は抑制されるが、正確な時間(何時の測定データなのか)が損なわれる。いずれにしても低線量ではノイズ(バックグラウンド)が支配的だ。(不確定性による)
このような数学的性質があるため、根本的な解決は「ガイガー管に高感度のものを用いる」しかない。これには、高感度に設計された(一般的に大型)管を採用する方法と、複数管を並列使用し、等価的に大型化する方法などがある。
プラトー電圧を越える高電圧を印加しても頻度は上がるが逆に管としての確度が落ち、何を観測しているのかわからなくなる上、管の寿命を短縮するのでやめた方がよい。並列使用の場合は、管の本数が2倍になる毎に感度は2倍になるわけではなく、一定の損失(SbM20の場合7%程度と言われている)があり、また指向性が生じる。
「定確度計測とハードウェア」
一定時間(例えば1分間)毎にカウント数を得て、プロットしたり統計的処理を行うためにPCに転送しようとすると、得られたカウント数をUSBポートやCOMポートを経由しシリアル転送しなければならない。これまた工作の難易度が上がってしまう。
ところが定確度計測では、一定カウント数に達したところで1パルスPCへ転送すればよいだけなので、通常使用されるマウスなどのボタンクリック情報として扱うことができるので、使用しなくなったマウス(もちろん新品でも可、ワイアレスでも可、使用しつつあるマウスでも可)のボタンのスイッチに、並列にホトカプラを接続するだけで、目的を果たすことができる。
またガイガーカウンタ本体の工作も定時間計測では一定時間周期(ゲートタイム・ジェネレータ)とカウンターが必要で、これをキッチンタイマーと万歩計(または電卓)で構成しても、カウントが追いつかず(多くの万歩計は3Hz前後がカウント上限)、TTLで構成するとカウンタ部分の工作が容易でも、表示部分の配線や電力消費が多くなってしまう。
しかし定確度計測ではストップウォッチとハードカウンタのみで構成できるので配線量は激減し、工作の難易度は一気に低下する。まあ、計測後にシーベルトへの変換のためには電卓でも装備するか。
この定確度計測の場合のシーベルトへの換算は、得られる情報が時間長なので、通常の定時間測定の場合の逆数になる。つまり、100カウントするのに120秒(2分)かかったなら、1分に換算するには、1分のカウント数C1m=100×(60÷120)で得ることができる(簡易換算)。詳しくは専門書を参照。