ガイガーミュラー管の複数接続についての考察
(放射線の強度、管の感度、S/Nなど・・・自作家に向けて) 2012_01_03追記 ©Y.Utsunomia 2011
*ガイガーミュラー管の複数接続は、1本のみの使用に対して、何らかの計測要素の性能向上を目的として行われる。しかし、自作を行う場合に、単純に並列化しただけではメリットだけではなく、場合によっては管の寿命の短縮や動作不安定の原因にもなり、一定の危険があることから、関連する事項を一通り記述しなければならないと思います。
注)この記述は独自の調査と研究に基づき行っています。主要な概念や考察を中心にし、詳細な回路解説や回路図公開は、計測
数値の詳細な掲載は趣旨に合致しないため見合わせます。また、公開する回路図についても再現性を保証しません。
この情報の採用により、情報利用者に何らかの不利益や損害が発生しても、執筆者、サイト管理者は免責されます。
*記述に対する誤りやご意見などは、遠慮なくお寄せ下さい。
*前説がしばらく続きますが、とくに自作家の方は目通し願います。
*核種判定、エネルギー抽出、比例計数モードについてのテキストについても共通の内容とします。
☆感度
「放射線量計を作ろう1」本編や「J408γ妄想」でも触れているように、ガイガー管の計数率はおおよそ管の有効容積に比例する(有効容積≒カソード円筒内容積)。このため同じ放射線量であっても小容量の管は少ないカウントに、大容積の管では高カウントになる。このことは一見、小型管は低感度、大型管は高感度のように思える。しかし、実際には計数率が違うのであって、管が大きいからより微弱な放射線を捕らえられるというわけではない。参照に示したように、感度は管の材質や構造(内部ガス、ガス圧、混合比)が大きく影響し、それらが支配的である。
このことを理解するには放射線の性質(概念)を紐解く必要がある。
☆放射線の強弱とは
放射線の強さの概念は、線種(α、β、γ、etc、)以外に、大きく次の2つがある。
○核種:
放射線は、物質原子核が崩壊するときに発生するが、その発生の仕方は、ガイガーカウンターの出力のように、1発、2発・・・という具合に不連続の現象である。ところが、この一発ずつはそれを発した原子の種類により、固有の色(目に見えれば・・・固有のスペクトル・・・固有のエネルギー=eV=電子ボルト)を持っている。例えばツリウム170では0.084MeV(メガ電子ボルト)の赤色、コバルト60では1.25MeVの青色(色は、目に見えるとしたらの例え)という具合。
ツリウムは弱く、コバルトは強い。このツリウムからコバルトの範囲はSBM-20の感度範囲であるが、ツリウムよりも低いエネルギーには反応しないことを意味する。
ガイガー管を比例計数モードで使用すると、パルスの電圧の高さに反映され、ツリウムでは低い電圧のパルスを、コバルトでは高い電圧のパルスが観測される。
(*以下の、「量や距離」が変わっても、赤い光が青い光に変わることや、その逆の現象はない・・が、サンプルと測定系の間に土や金属などの障害物があると、エネルギーの吸収や再放射のために、カラーバランスが変化する場合がある・・・一般的に「白化・・曖昧化・・ノイズ化」する傾向がある)
ガイガー管をガイガーモードで使用した場合、エネルギーの強弱は出力パルス電圧に反映されず、どちらも同じ電圧「1」が観測される。
感度とはこのように1発ずつのエネルギーについての反応を指している。これは管の大きさには無関係であることは容易に理解できるだろう。
○量:
端的に表現すれば、崩壊している原子がいくつあるのか、ということ。SI単位系ではベクレルで表される。
線源との距離が一定なら、ガイガー管ではカウントの頻度に比例する。先の核種の違いによる感度に対して、量はパルスの「頻度」として観測されるが、現在一般的には、核種ごとにリスト表示する。ガイガー管を用いた計測では総量で表示するが、核種についての識別が無いため、線種ごとに表示する場合もある(γ、γ+βのように)。この用途にはパンケーキ型(α+β)や雲母窓管(γ+β+α)が用いられる。
量であるから、測定サンプルの量(一般的に重量)にも比例する(γ線)。α線やβ線では、サンプルの厚さ方向では、「影」になるため放射線が遮られ、正確な測定ができない。そのため表面測定とも呼ばれる。
○距離:
距離により放射線は希薄になるが、核種固有のエネルギーは保たれたまま、「頻度」が低下していく(つまり比例計数モードではパルスの電圧高は変化しない。頻度が変化するのみ)。
低下の度合いはγ線の場合直進性がよいため、距離の2乗に反比例して頻度も低下する。β線やα線では、さらに大きく頻度低下する(直進せず、湾曲進行するため)。
*このことは磁場の存在によっても、何らかの影響を受けることを示している。
また、感度は単に出力パルスの多さやパルス電圧の高さで評価されるわけではなく、ノイズの量により、同じ強度の放射線を計測している場合でも、ノイズが多ければ識別が困難となり、低感度ということに、逆に出力パルスが少なくても、目的以外のパルスが出力されないなら、高感度と評価される。(S/N比)
感度は感受スペクトラム・エネルギーについての感度と、S/N比についての要因があり、ときに混同して論じられるので注意。
このように放射線の強弱、ガイガー管の感度は、他の分野と概念上かなりの違いがある。これは放射線現象が、不連続であり、不確定性であり、時間軸乱数変調を伴ったものだからだ。このようなものを稀現象というらしい。
○ノイズ(が、管の実効容積あたり、およそ一定になること)
しばしばガイガー管はシンチレーションや半導体プレートと比べ、ノイズが多いと評される。確かに広義にS/N比のSは必要な信号を、Nは不要な信号と解釈されるので、定量的にγ線を測ろうとすると、およそ一定のノイズフロアがあり、それよりも低いカウント数を識別することはできない。しかし、このノイズフロア(バックグラウンド=BG)を解析していくと、いわゆる無意味なランダムな(例えばボルツマン定数由来の熱雑音のような)ものではなく、何らかの有意な検知動作であることがわかる。例えば宇宙線などの荷電粒子などが多く、これまた管の実効容積に比例する傾向がある。多くの場合これらはγ線よりもはるかに透過性や遠達性が高く、容易に遮蔽することができない。入力される放射線や浸入・通過する荷電粒子と無関係なノイズであるなら、管の実効容積には比例しないはずだからだ。管の材料や構造に関わらずBGと実効容積の間に一定の相関がある以上、明らかに有意な検出を行っているためと考えざるを得ない。
粗悪なものや一部の製品には、管の構造や素材にラジオアイソトープが含まれ、そのものから放射しているためにノイズフロアを持ち上げているものもあるが、先の実効容積から算出されるBGよりも、有意に大きなBGの場合はこれを疑う必要がある。未確認ではあるが、一部の製品では、低線量計測時に反応の直線性を向上する目的で、微量の核物質(多くは低エネルギーの)をバイアスとしてセットしてあるらしい。
参考)透過性では宇宙線>中性子線>γ線>β線>α線のような序列があり、この中のどれかを検出しようとしても、透過性で下位(右)にあるものは障害物で遮蔽することができるが、透過性で上位(左)にあるものを遮蔽することは困難。ヨウ化ナトリウム結晶などのシンチレーションがγ線定量で重宝される理由は、特定物質のシンチレーションという現象そのものが、γ線に特異的に反応するためで、他の線種も透過しているが、反応しないだけなのである。
一方、ガイガー管では中性子線(正確にはγ線も)以外に対して強く反応するが、β線を検出するときγ線よりも左にある線種を遮断できないため、これがノイズの重要な位置を占めることになっていると考えられる。このことを理解のうえで「自己雑音」について評価する必要がある。
特殊なガイガー管では、「窓」の材料や管の構造上の工夫により、より透過性の高い線種を散乱なく通過させる工夫を施した、α線専用管も存在するが、これらでは実効容積あたりのバックグラウンドは低く抑制されている。
*ネット上で語られるガイガー管固有の自己雑音(暗カウント)についての記述はこの点について不十分な説明であるし、正常な
地表上空間でのBGがガイガー管とシンチレーションで大きく異なることの説明になっていない。シンチレーションに対してガイガ
ー管の暗カウントが本当に3倍もあるのだとしたら、BG以上の直線領域そのものが説明できなくなる・・が、プラトー電圧上限
を大幅に超えるような回路で動作している管(例えばCI-3BGに530v印加のような)では、確かに暗カウントは大きく増大する
が。
ガイガー管で微小なベクレルを計測する必要がある場合(食品や飲料水などの)、実質的にこのBG(=ノイズ)との物理的、数学的識別力が壁となる。しかし、BGが無意味な信号ではなく、有意な検知動作である以上、識別の可能性は十分に期待できるとしておきたい。
上記の、ガイガー管自体がラジオアイソトープを含むような場合を除き、実質的なS/Nは、管の大小を問わず、およそ一定になるようである。(ただし管が透明ガラス管でできていて、外来光に対して光電効果があるような場合や、電気的なシールドが虚弱な場合は、ラジオアイソトープを含む場合と同じように、容積あたりのBGを越えるので、原因を排除しなければならない)
○時間軸上のノイズ
ガイガー管に由来するものではないが、放射線の測定一般について、「時間軸上のノイズ」という概念も理解しなければならない。
ガイガーミュラー管からの出力は、毎分あたりのカウント数で表現されるが、1分毎に計測していくと、低線量時ではカウント数が大きくばらつくことはよく知られている。放射線現象はポアソン過程であるためだが、別の見方をすると、時間軸上のノイズとも言うことができる。
これを減ずるために使用される手法が、複数のサンプリング(複数回CPMを取得する)し、平均をとるというものであるが、同様のより効果的な低減方法が定確度計測である。
定確度計測については、utsunomia.comの他のコンテンツにも詳しいが、ポアソン過程そのものを、時間軸に対するノイズ変調と捉え、計測時間の方をノイズに合わせて伸縮同期させ、ノイズを減じ確度を向上しているとも言える。このノイズに同期という概念を拡張発展すると、さらに高度なアルゴリズムも考えられ、また他にもいくつかの数学的手法がある。(詳細は計測アルゴリズムの別文で)
しかし問題はそれほど単純ではなく、時間軸上のノイズを減ずるために、時間を多くかけすぎてしまうと、時間軸解像度だけでなく、識別解像度も低下するので注意しなければならない。
前説が長くなったが、これらの性質や問題点を考慮して、ガイガー管の複数接続、同時使用がどれくらい有効であるのかを説明しなければならない。
☆接続方法
複数管の接続にはいくつかの組み合わせがある。実際の製品での接続方法は期待する目的に応じてアレンジされる。
図1.
並列接続の説明
写真1.外観
○単純並列接続
回路図例ではPC-Aで、複数のガイガーミュラー管のアノード同士、カソード同士を単純に並列接続する使い方。実際の製品例では「プリピャチ」が代表的。
動作はどれかの管に
放射線が入射すると、 ・・・・・・[0]
→内部ガス中に電離チャンネルが形成 ・・・[1]
→このチャンネルに微小な電流が流れる ・・・[2]
→これをトリガーとして電子雪崩(主放電:大きな電流)が発生 ・・[3]
→1カウント ・・・・・・[4]
→ガイガー管のアノード/カソード間に蓄えられた電荷は、主放電によって失われるが、主放電後アノード抵抗を経由して、
ゆっくりと(数十~数百μsec)管に電荷が蓄えられていく。この電荷蓄積中は、ガイガー管は放射線を検知することは
できない。 ・・・・・・[5]
→電荷が蓄えられ、管内が励起状態になると、次の入射待ち ・・・[6]
1本管の動作と、何等の違いも無さそうに見えるが、[3]~[5]に大きな違いがある。[3]の主放電が速やかに停止するには、管の内部ガスにハロゲンを同封し「クエンチング」されるからなのであるが、クエンチングは何が何でも放電を停止できるわけではなく、電気回路的には放電維持電圧をかさ上げしているに過ぎない。主放電が始まり電荷を消費していくと、アノード/カソード間の電圧は徐々に下がり、一定電圧以下になるとクエンチングにより放電維持できなくなる。(管の設計により、その度合いは様々・・)
主放電している管は1本であるが、2本(あるいは並列化されている全ての管)の管は単純並列なので、放電していない管に溜まった電荷も、放電している管は消費し、電圧が一定以下になるとやっと放電は停止する。
つまり、2本並列ではガイガー管2本分の電荷(SBM-20の場合、1本4.2PFなので8.4PFに蓄えられた)を管1本で消費(1本管の場合の2発分相当)しなければ、放電は停止しない(例えばアノード抵抗値が適正以下の場合は、管が1本でも複数でも、一定電圧以下にならないため、放電停止しないが、実際にはもう少し複雑)。
[4]の1カウントに関わるものでは、上記のように放電している時間が約2倍になるために、ガイガー管に接続されたカウンターの計数確度が向上する。
[5]は不感時間と呼ばれるが、不感時間は正確には[3]の主放電が終わった後に、管内ガスが再び励起されるまでの時間を指す。さらに実際の回路では、アノード抵抗を介して、ガイガー管の静電容量(1本あたり4.2PF)に蓄電する時間が必要で、不感時間と蓄電時間は一部重複する。このように管の不感時間と蓄電時間が別定義になっている理由は、ガイガー管の動作様式には「パルスモード」と呼ばれる、高アノード抵抗を用いない回路形式があるためで、放電後にこのモードで如何に急速充電しても不感時間内では、電離チャンネルは形成されないため。
一般的な回路設計では、不感時間よりも蓄電時間の方が多少長いため、蓄電時間を指して不感時間と呼ぶこともあるようだが、1本の場合はこれにあまり配慮しなくてもそこそこの動作はできる。ところが、複数管の単純並列では蓄電しなければならない電荷が本数分となるために、同じアノード抵抗値では、単純には本数倍の時間がかかる。
アノード抵抗値を下げたいところではあるが、アノード抵抗値はクエンチングと密接に関わるため、下げるとクエンチングに失敗し、最悪の場合、上記のように連続放電に陥る。
参考:厳密には動作電圧を考慮し、アノード抵抗は決定される・・・極論すると比例計数管モードでは、大きな主放電を使わないため、クエンチングも不要で、大きな抵抗値のアノード抵抗は不要・・動作安定のためとS/N比改善のためと安全のために、現実には一定値以上のアノード抵抗を使用する。
○単純並列では検出部分の実効容積が本数分増大するため、検知できる放射線とめぐり合う確率が、容量増分ふえる
(ただし、2倍ごとに7%ずつのロスがあるという説も)。 ・・・利点
*理由は不明だが、並列化すると対応スペクトルの幅が広がるらしい。
(SBM-20単体では84KeV~1.25MeVであるが、単純並列仕様の製品では50KeV~3.0MeVとなっている・・
調査不十分で検証中)
○他の多くのエネルギートランスデューサー型センサーと同様に、2倍毎に変換 計数率で+6dB 、ノイズの上昇分は+3dB 、
差し引き3dBのS/N比向上が期待できる(ただしBGのうち1/3は宇宙線由来だが、これについてはノイズではなく検出なの
で、本数に比例して増加する)。
○検出1パルスが時間軸上で約2倍幅(2本の場合)となるために、カウント確度が向上する。・・・利点
▲しかし、パルスの立ち上がり、リリースのそれぞれの時間・傾斜それぞれは時間軸上で引き伸ばされる(おおよそ本数倍)
ため、計数率は本数倍となるが、時間軸解像度は向上しない。
○実質的な不感時間(1カウント後に無反応になる時間)もおよそ2倍となる。このため、前項と合わせて、高線量、高カウント時に
は反応直線性が著しく悪化する(高カウント時の直線性を考慮したカウント上限は、1本の場合のおよそ半分程度なので、
SBM-20では250μSv/hとなる)。・・・問題点
○全ての管に同一の高電圧が印加されるため、管による固有のばらつきが出にくく(平均化されるため)、低線量を安定に計測
できる。推論になるが、管容量の合計と同等の容積を持つ、大型管と同等の計数率で、なおかつ形状が扁平に近づくので、効
率の良い検出と指向性が得られる。・・・利点
▲1検出あたり、本数分の電荷を1本で消費するため、管の計数寿命を大幅に短縮する。実際の製品を調査してみても、単純並
列では2並列の製品(プリピャチなど)が見られるだけで、それ以上の本数の単純並列の製品は見つからなかった。自作する場
合でも、単純並列は2本に留めておいたほうがよいと思われる。・・・問題点
(プリピャチの場合、演算・表示部分の制限もあるが、上限は200μSv/hと、SBM-20を使用した製品の中では、かなり低い上限
値となっている)
☆単純並列なので、基本的には周辺回路の変更なしに、ガイガー管1本の製品や自作機の計数率を、2並列とすることで倍増で
きる。校正や換算が必要ではあるが、より低線量寄りに簡単改造できる。(ただし管はペアーで揃えたものを用意すべき)
・・・利点
注)カソード検出の場合、しばしばカソード抵抗と並列に位相補正コンデンサが使用されているが、1検出あたり2カウントするなどの症状がある場合は、この位相補正コンデンサの値を1.2倍~1.6倍程度に増やす。
★★プリピャチはデジタル表示ではあるが、中身はDP-5Vのような積分型で、検出したパルスをコンデンサで積分した電圧値
を、内蔵のADコンバーターでデジタル変換して電圧表示している(つまり、構造的には、積分器→高インピーダンスの
デジタルテスターのような組み合わせ)。したがって一切のカウントはしていない。
利点としては、1カウントを1量子として扱う必要が無く、ガイガー管出力がエネルギーを反映している場合、直接的にエ
ネルギー量を積分表示できる。コンデンサに蓄電した電荷を適度に一定電流(微弱な)で放電し、同時に積分することで、
時間をかければかけるほど実質的に有効ビット深度が深くなっていく仕組みになっている。機構的にはDP-5Vを低線量向け
に機能拡張した直系の装置と言えそうだ。DP-5VのプローブからCI-3BGを取り外し、SBM-20を並列追加し、積分コンデンサ
の電圧をデジタル電圧計で表示すると、プリピャチになるかもしれない。
写真4. Jupiter SIM-05
○個別動作並列接続
回路図のように、各ガイガー管ごとに独立したアノード回路を持つ接続。概念的には独立のガイガーカウンターを並列動作分並べて、その出力を加算集計した結果と同じ。
そのため同じ線量でのカウント数は、ほぼ管の本数倍となり、同じ確度での計測時間は、ほぼ半分となる。
上記の検出手順のステップでは、同様に[3][4][5]について検証の必要がある。
[3]の電子雪崩では、検出した管のみで主放電が起こるが、単純並列とは異なり、アノード抵抗が独立しているために、他の管の電荷を消費することは無く、そのために[4]の出力パルスは、1本管の場合と同等となる。
[5]の管の固有の不感時間は、1本の場合と同じであるが、複数の管で同時に検出が起きる可能性は低く、1本が不感時間中であっても、他の管は[6]の準備完了状態であるため、入射した放射線の数え落としは最大で管の本数分の1倍となる。蓄電回復時間についても同様で、最小で管の本数分の一となる。
このように個別動作では高カウント性能が、最大で管の本数倍となる。実機の例では、Jupiter SIM-05(2本独立並列)などをあげることができる。高線量計測では、この利点が大きいようで、同じ軍用線量計のDP-5Vでは、SBM-20の運用上の高線量計測限界は500μSv/hであるが、SIM-05では約2倍の999.9μSv/hとなっている。
注)ただし管1本あたりのカウント上限が拡大されるわけではないので、自作する場合は、この点に注意。
☆高線量でガイガー管は気絶(あるいは窒息)と呼ばれる現象があるが、SBM-20でそれは500mSv/hであり、1mSv/h(999μSv/h)から見るとずいぶん余裕があるが、どのような複数接続動作をしても気絶現象を免れることはできない。
低線量領域では単に計数率が倍増するだけなので、計測時間の短縮(同じ計測時間なら確度と時間解像度の向上)が得られるのみで、検出分解能や対応スペクトルは1本の場合と同等。
☆変則的な使用例
旧ソビエト軍用レントゲンメーターDP-5Vでは、測定レンジが6段階あるが、低線量側3レンジでは、SBM-20とCI-3BGのまったく感度特性の異なる2本のガイガー管が個別動作で並列接続されている。これは軍用という性質上、万一SBM-20が動作不能に陥った場合でも、CI-3BGで定性的にカバーしようということのようである。論理的予想では同じ線量を計測しているときに、SBM-20とCI-3BGはそのカウント数で100倍以上の計数率の違いがあるため、カウント寿命において、SBM-20の方が明らかに短命に思える。
ところが現実に多数のDP-5Vを調査してみると、故障率はCI-3BGの方が明確に高かった。現実とはそういうものなのだろう・・・。
写真6. Jupiter SIM-05 内部
個別動作並列接続をまとめると、
○時間あたりの計数率が向上。管の配置方法にもよるが、ほぼ本数倍の向上が期待できる。
結果的に計測時間の短縮、同じ計測時間なら確度の向上が見込める。
これにより時間解像度は向上するが、感度特性などは1本の場合と同じ。
注)時間解像度と定量測定に関する資料があまりないため、評価が難しいが、同じ計測確度の場合、時間解像度が高いと定量分解能は向上するようで、実際のセットでは「使用感」として認識できる。
○不感時間や高線量でのリニアリティーの悪化を、本数分の1に圧縮できるため高線量の計測に対して有利。
ただし管1本あたりのカウント数上限は1本の場合と同じため、注意。
○検出部形状が扁平(レイアウトにもよるが)になるため、効率の良い検出特性や指向性を得ることが出来る。
▲S/N比の改善は直接的には期待できない。
直接的には改善しないが、測定時間の短縮や計数率の向上により、オーバーオールには改善が期待できる。
▲スペクトラム出力特性は、それぞれの管が独立動作であるため、同一の電圧条件、充放電条件ではないため、ばらつきが
出やすく、そのため1本の場合よりも悪化する(スペクトラム特性・・とくに比例モード、部分的比例モードの・・は明示的に悪化
し
、ピークの鮮明さは失われる)。
☆SIM-05ではγ線計数率(感度)の向上のために、個別動作並列接続のみならず、鉛薄板の遮蔽ににより
β線計数率低減を図ると同時に、散乱を積極的に利用。低線量時の計数率では、管の選別ともあいまって、
SBM-20単体の計数率の2.2~3倍以上にも改善されている。おおよその改善割合は、並列化:X1.9、遮蔽:X1.1~1.2、
選別:X1.1~。
(管の選別の無い一般販売モデルではゲートタイム25秒、軍納入用の選別管モデルでは、ゲートタイム18秒から21秒の
ようである) 2012_01_03追加
○直列接続
直列接続は、接続の可能性としては考えられるが、現実のガイガーカウンター製品に例を見つけることはできなかった。
単純には、それぞれのORをとったことになるが、クエンチングとの関連からは、必要電圧が倍増するだけで、大した利点は無いと思われます。
○アノード検出か、カソード検出か
回路上の問題で、ガイガー管の出力を取り出すのにアノード側から取り出すのか、カソード側から取り出すのかという問題。
この問題は直接には管の複数動作とは関係が無いが、しばしば議論される問題であるし、複数動作させる場合には1本の場合とは異なり、回路設計や組み立てに大きな影響を及ぼす。
○カソード検出
検出のアノード・カソードの違いは、主に電気回路上の出力電圧/出力インピーダンスの違いと言える。
カソード抵抗の値は、回路設計にもよるが、およそ数十KΩ~100KΩ程度のことが多いが、出力インピーダンスは実質的にこの抵抗値と同じになる。位相補正としてこの抵抗に並列コンデンサが入っている場合(一般的に必要)、高周波域では、インピーダンスはさらに低下する。位相補正が無い場合に高速の計数回路で信号を受けると、しばしば1パルスを複数カウントするなどの問題が発生するが、最適値は100KΩ時に数十PF~100PF程度になることが多い。
(ワークショップの回路では1000PFとなっていて、明らかに過大な数値なのであるが、このセットはシールド無し、近傍にブロッキング発振の高圧電源が位置しているため、RF障害、発振信号の飛びつきを軽減するためにこの値になっています)
電気回路の信号伝達について、インピーダンスは出力/次段入力において、同一あるいは次段入力が十分に高い必要がある。100KΩ信号源に対して、100KΩあるいはそれ以上のインピーダンスで受けることは、通常のバイポーラトランジスタあるいはC-MOSロジックで容易に実現できる。また数十PFの容量結合として、立ち上がりエッジのチャージアンプとすることも容易である。
外来雑音に対しても、インピーダンス的にプルダウンされているために、グランドの「座り」が良好で、回路動作を安定に保ちやすい。次段回路にとっての入力インピーダンスは、完全なスイッチング動作で無い限り、雑音指数や伝達特性を決定する重要なパラメータとなるため、カソード検出ではノイズ分布が安定している。とくにガイガー管からの出力を増幅する必要がある場合(比例計数管モードのような)、0vの座りや信号源インピーダンスが低いことは重要である。
もう一つのメリットは、どのような次段入力(仮に0Ω電流き電または、イマジナリー・ショート状態、または、別の管の共通カソード回路)であろうと、管の動作状態にほとんど影響がなく、また寿命への影響が無いことがあげられる。
**一時期販売されていた、レイセオン社の古いガイガー管では、カソードが管外ガラス上の導電性塗料であったが、
これが経年変化でひび割れや剥離しかかった状態になり、管の内部容量を通じて電荷が剥離しかかった部分で微小な
放電を起こし、それがカウントされてしまうという問題があった。信号の抽出をアノード側に変更すると一定の改善をみ
る、という議論からカソード側からの信号抽出に対して、アノード側からのそれは利点が多いかのような流れであったよ
うに思うが、まず、問題は管の電極不良なのであり、どちらから信号を取り出すか、の問題とは無関係である。カソード
の剥離による微小放電であるので、直近から信号を取り出すカソード検出では、その放電を拾っていたことになる。先ず
やらなければならないことは、カソードの修理であろう。
○アノード検出
仮に使用するガイガー管をSBM-20とすると、標準的なアノード抵抗値は5.1MΩで、出力を取り出す場合はこのアノード抵抗とガイガー管のアノードの接続点から取り出す。この部分の電圧は、管が不検出時には高圧電源の電圧に等しい。高圧電源が400vなら、この部分の電圧も400vとなる。なぜならガイガー管は不検出時には単なるコンデンサーであり、同時に絶縁体(誘電体)であるからだ。もし、不検出時にこの部分の電圧が下がっているなら、それはガイガー管にリーク(電流の漏れ)があり、これは明示的に管の不良を意味する。
つまりアノードから信号を検出しようとする場合は、直流的には漏れ電流の無い、極めて高い絶縁性を保ったまま信号を取り出す必要がある。このため一般的には高耐圧のコンデンサを経て信号検出するが、このコンデンサの絶縁特性は重要。高効率の高圧電源を用いたセットでは、わずかな漏れ電流でも手を焼いている方が多いが、そこへもってきて、さらに接続するものが増えるので、組み立て難易度はより高度化する。
管の静電容量が4.2PFなので、使用できるコンデンサの容量は、同じ4.2PFとし、次段の入力抵抗を0Ωと仮定したときに、上記の単純並列の場合と同じく1度の検出で2発分の電荷を消費することとなる。つまり次段が高圧側を基準としていても0v側を基準としていても、この結合容量の4.2PFはガイガー管の静電容量と並列になっていることと等価になるため、アノードから信号を取り出すことは大なり小なり管の寿命を左右することになる。
作例のいくつかを見ると、この結合コンデンサに数十~数百PF、次段はトランジスタのベースで直受け(バイアス付き)なので、相当に管の負担となっていると考えられる。
推論に過ぎないが、前出の軍用レントゲンメーターDP-5Vで高線量検出管のCI-3BGが短命であると記述したが、その原因の一つはアノード結合コンデンサがSBM-20が15PF、CI-3BGが47PFであることも関係しているかもしれない。
利点としては、非常に大きな電圧振幅のパルスが得られる、カソードがガラス管への導電塗装で、それが傷んでいる場合でも、その部分での微小放電の影響を受けにくい(それよりも振幅の大きな出力が得られる)など。また、カソードを直接グランドへ接続できるため、シールドの弱いボディーの場合でも、外来雑音に対して有利であることなど。
実際の製品では、結合容量10~20PF、次段の入力インピーダンスは数百KΩ以上の場合が多いようである。寿命や動作に影響を与えないほどのインピーダンスは、アノード抵抗の5~10倍程度(=25MΩ~50MΩ)となる。しかしこれほどのインピーダンスで受けたときに、その入力には瞬間的とはいえ数百vの電圧が印加されるのだから、半導体では寿命まで考慮した設計は、容易ではない。
また、出力がパルスであることから、高巻数比のパルストランスなどで、実効的なインピーダンスを上げることは有効な方法であるが、自作ではあまり作例は見られないようだ。
複数管の個別動作並列接続の場合では、各管に独立して検出回路を設ける必要がある。カソードから検出する場合は、カソード抵抗を各管独立にすることも1本に共用化することも可能。
参考に、筆者が主力使用しているSBM-20 X4連装の回路図を参考掲載する。
図3.SBM-20 X4連プローブ
写真7.X4-1
写真8.X4-2
写真8.X4-3
写真9.X4-4