放射線量計を作ろう 番外2
医療で使用される放射線の庶民的測定について
本テキストは核医学検査のひとつであるPET-CT、CTなどの検査を、受診する患者の立場で物理観察するというコンセプトで、特別なアポイントや装置・校正を用いずに、どれほどの計測が可能かを実際に試してみた記録です。
ダイジェスト
- ○ オリジナル・ガイガーディテクタによる連続した検出(PET-CTでは18F-FDG注入以前から注入後10半減期以上の)とその統計的処理。
- ○ 使用したハードウェアの製作記事。
- ○ ディテクタからのデータの自動記録(汎用の録音装置を用いた)と、そのデータの処理方法(Audacityを用いた処理操作等)。
- ○ 予想値の簡易な算出と得られた結果の比較。
- ○ 世間一般で考えられているよりも桁違いに大きな照射線量の実態。
経緯
現在の私たちの生活は様々な技術によって支えられていますが、とくに疾病などの問題に対する医療技術の進歩は著しいものがあります。
その中でも核医学分野はがんなどの難治性の疾病に対して、治療だけではなく、診断や外科的手法の補助としても大きな成果をあげています。
私もその恩恵にあずかっているのですが、実際の放射線量や放射能量について、それが「被ばく」であることから、詳細な数値や経緯はなかなか公表されません。このことは自分の被ばく量の管理ができないことに留まらず、場合によっては周囲の人々や家族にも少なからず影響を及ぼすレベルのものでもあるようです。
被ばくによる影響は総じて(疑問の余地はあるが)積算した線量当量に比例する傾向(ただし、一定以下の被ばくに対して閾値の有無は議論の的)があることから、ある程度の余裕度は把握しておくことは無駄ではありません。
2011年3月11日に震災と福島第一原子力発電所の事故が起こりましたが、私はその6ヶ月前に悪性腫瘍罹患・手術を、事故3ヵ月後にPET-CTという陽電子放射/対消滅γ線を利用した診断法を受けました。そのときの簡易な計測の様子の動画とテキストは大きな反響があり、その反響の大きさに私自身驚いたものです。
放射線量計を作ろうVol1 番外
http://www.utsunomia.com/y.utsunomia/extra.html
この記事が原子炉事故の無い状況で発表されていたなら、そこで公開されている数値や計数動画は、ごく限られた人にしか理解できないものであったと思いますが、事故後多くの人がCPMやμSv/hという単位に敏感な時期であったこともあり、SNSなどでも有象無象の驚嘆や罵詈雑言が飛び交ったようです。
私にとっては他人がどのように思おうとも、私は当事者であり、計測はあくまで自分の状況の理解であり、またモチベーションのひとつの支えとさえ言える位置づけで、公開している理由はその数値が半端なエネルギーではなく、検査の様式によっては、周囲に十分に影響を及ぼす可能性があるものであったからです。決して自分だけの問題ではないことを自覚する意味もあります。
また被ばく量の計算においても、リスクの算定においても、それが医療によるものか、核プラント事故によるものかを問わず、どのようなシチュエーションで被ばくしたのか、被ばくが管理されているのかをより正しく理解する必要があるからです。危険なのは、無知と無視と過信と考えます。
原子炉事故では、その初期には短命核種が多く放出され、短命ゆえにそれからの被ばく量や影響は甚大で、後の計測データからの推論は信頼に値しません。そのときに得られた観測が全てと言えます。
後のリリースカーブからは推定が困難なほどの被ばくがあるのですが、今回の事故では観測が不十分で、また、最低限の検知装置配備もできていなかったため、避難や身構えることも十分にできたと言いがたいものがあります。
医療でも同様で、どのタイミングでどのように被ばくしているのか、庶民としてはなかなか知る手がかりがありません。18F(フッ素18/陽電子放射崩壊)は半減期が110分で、検査後に計測することができますが、X線CTでは、検査後にどうがんばっても、その痕跡を追うことは困難です。
(注記: 私は管理された医療による被ばくと、原子炉事故による被ばくは、線量当量という尺度により同列で影響を評価することは出来ないと考えています。無論、内部被ばくと外部被ばくについても同様です )
医療側からの説明では、PET-CTの場合で25mSv(うち18F-FDGアイソトープによるものが5.7~7.0mSv、CTから20mSv程度)、CT単独の場合ヨード造影で30mSv程度と言われていますが、これは/hの付かないその検査の総被ばく量で、撮影の瞬間にはどれくらいの被ばくを、どれくらいの時間うけているのか想像も困難です。調べると出てくる被ばく量数値を漫然と納得させられている、という状況と言えます。
そこで検査側の許可を得た上で、検査室に簡易な計測装置を持ち込み、PETでの対消滅γ線の上昇・減衰状態、X線照射のタイミングや照射時間、程度を自動記録する方法を考え、実行してみました。(また、付属資料として通常のヨード造影CTの観測データも添付します)
18Fの半減期カーブは、身体表面にディテクタを固定し、24時間程度計数を追跡しますが、これについては後に解説します。
<予備計算>
CTの撮影は、高性能な装置ほど短時間で終了しますが、これは写真と同様にシャッター時間が長いと、被写体が動くことで、撮影した像がブレて鮮明でなくなるためと言えます。被ばく量が大きいにもかかわらず、X線CTが用いられ続けている原因のひとつは、この撮影時間の短さで、並んで用いられるMRIのように長時間露光(写真との比較から)では、どうしても被写体のブレが大きくなる傾向があります。(近年のデジタルスチルカメラに用いられる、HDR技術を発展させた撮影技術では長時間露光の変わりに、短時間の露光で複数枚撮影し、デジタル領域で、ブレやノイズを大幅に軽減するという手法が用いられていますが、同様の手法がMRIやCTにも採用されつつあるようです)
さて、総量で30mSvの被ばくがあるとされるCT撮影でも、一般的には撮影そのもの(X線を照射している時間)は短く、せいぜい1分程度と思われます(実際に、1分間なのか、照射は1回なのか、照射の強度は一定なのか)が、仮に1分間の照射で一定強度とすると、線量当量の計算では30mSv/hの強度のX線を1時間被ばくしたときに30mSvとなるので、その量を1分で被ばくするなら、30(mSv/h)X 60(分)=1800(mSv/h) =1800mSv/h=1.8Sv/hの強度の被ばくを1分間受けたことになります。
この1.8Sv/hという線量当量ですが、かのチェルノブイリ原発事故現場で現在も消防隊に使用されている、高線量でも安定な軍用の放射線量計DP-5Vの公称上限が3Sv/h (この数値は、DP-5Vに採用されている高線量専用のガイガーミュラー管SI-3BGの安定動作上限でもあります)なので、この機種(SI-3BG)でやっと直接観測できる線量ということになります。
(注1 チェルノブイリ原発の建屋内、破損黒鉛チャンネルの残骸が、現在この程度の放射線量だそうです )
(注2 旧ソビエトの資料によれば、SI-3BGの計測上限は300R/h(3Sv/h)らしい。同様にSBM-20の上限は50R/h(500mSv/h)とのこと )
またこの予備計算は1分間の一定照射が前提で、先のシャッター時間のような露光と同様なら、位置決め、ためし撮り、本撮影のように強度が変化し、本撮影では大きく照射強度が高くなっているかもしれません。
仮にそうだとするなら、SI-3BGをもってしても正確な計測は困難ということになってしまう(その場合は複数のSI-3BGによる並列化などで対応しなければならないかもしれない)。
<予備実験・・?>
自分の身体状況に甘んじて「予備実験」も不謹慎だが、PET-CT検査自体は非常に好奇心をそそるものではあるものの、心理的なモチベーションは下がる一方だ。先の「番外」は術後8ヶ月のことで大した準備も無く、アップした動画と、メモによる記録程度しか資料作成できなかった。
(このときのディテクタは浜松ホトニクス製D3372を使用した秋月電子製キットをベースとしたものと、SBM-20を使用した自作セット)
2度目のPET-CT(その間3ヶ月に1回のペースでヨード造影によるCTがある)は術後3年目(2013年11月)でしたが、どちらも撮影が決定したのは状況が緊急であり、検査告知はその1週間前と準備にはあまり時間が無い状況ではありました。2度目はなんとなく予感はありましたが、できれば避けたい(CTも)検査です。
1度目の検査で、おおよその線量の相場はわかったものの、余すところ無くフッ素18の半減カーブを取得(実際には代謝排泄や、臓器への集積とその変化があるため、アイソトープ物質量として一定ではないため、理論値カーブと同じにはならない・・生物学的半減期)するには連続したロギングが必要である。マイクロコントローラのプログラミングが得意なら、条件を満たすような装置をつくることも可能かもしれないが、十分に安定したディテクタ、汎用に使用される録音装置など一般的な装置の組み合わせで実施することが庶民的であると考え、贅沢に非圧縮で情報のログをとることにしました。(非圧縮で情報を取得することで、定量が困難なほどの高頻度出力パルスの状態でも、波形の崩れ方から入射量を推定できる)
計測計画
これまでの経緯から体表面での線量は18F・370MBq程度の投与では、およそ500μSv/h(頭部)からの減衰であることがわかっているので、その範囲をカバーできるガイガー管であるSI-29BGを用いたセットを採用(有効サイズはSBM-20のおよそ半分、計数率は6~7割程度)、また記録部分は汎用のフラッシュメモリー記録媒体で、長時間安定動作することを確認しているZOOM社製H1を用い、48KHzサンプリング16bitで記録フォーマットとし、Lチャンネルにガイガーディテクタからのパルスを、Rチャンネルにその場の音を記録することにした。
この記録フォーマットでは、3時間あたり2GBの媒体を消費するが、検査を開始する少し前から、24時間以上体に密着させ、連続データ取得することとした。
(当然ではありますが、記録メディア、電池電源の交換サイクルは事前のテストから、8時間毎とし、交換には1分間の時間を見込みます)
記録方法とディテクタの製作
ガイガーディテクタ部分の写真と記事
http://bb2.atbb.jp/geiger_dev/topic/28436
セット回路図
[回路図説明]
使用した録音装置はZOOM社H1というマイクロホン内蔵の小型軽量の機種ですが、内蔵されているマイクは単一指向性のエレクトレットコンデンサ・カプセルが使用されています。単一指向性のマイクはその名称が示すように前方感度が高く、マイクを向けた方向の音を捉えやすいのですが、構造上(速度型振動系を持つため)、タッチノイズや風雑音が大きく、今回の目的では音源方向に向けることができないので、無指向性マイク(圧力型振動系であるためタッチノイズや風雑音が少ない)を外付けします。
H1の入力端子はステレオミニジャックで、プラグインパワー(エレクトレットコンデンサマイクに電源供給するために、入力でありながら約+3v程度が出力されています。
このことに配慮し、また、入力がマイクレベルであることを考慮し、R chは無指向性マイクカプセルを直結、マイクと同レベルで適切なレベルになるように・・・Hシリーズは+12dBのエンファシスを利用しS/Nを向上させているため、録音レベルは-12dB以下になるように、低めに設定・・L chのガイガーからの出力を減衰させます。(R1、R2、VRにより調整)
注1; VRのみでも減衰できますが、プラグインパワーからの電流がVRの可動子に直接流入するため、プラグ部分の接触や可動子からの雑音発生の原因になりやすい傾向があります。この雑音発生とレベル不安定を解消するために固定抵抗による減衰回路(R1とR2による)をプラグインパワー側に入れます。また、R2の数値は、H1の入力換算雑音に影響するため、最適な値を求めます。
注2; この接続回路に適合するガイガーディテクタは、例出のようなプリアンプ回路(+波形整形)を持ったタイプのものですが、ガイガー管からの直接出力のものでは抵抗数値の変更や、ビープ音のものでは望む結果が得られない可能性があります。
注3; H1のプリ・エンファシスは+12dBではなく+6dB程度かもしれない。
このテキストで掲載している波形データ、SoundCloudでダウンロード可能なデータは、オリジナルデータを編集し閲覧に最適化したものです。
セット写真(DP-5Vとの比較写真)
セットの構成
セットの体へのセット方法
[写真解説]
医療機関でのこのような持込は、しばしば検査の障害となりうる。もちろん放射線技師や医師によってそのような持ち込み計測が障害とみなされれば、許可を得ることはできない。
PETにおける18Fの崩壊を追跡するためには、身体の一定箇所での固定計測が必要であるが、そのために特別な操作が必要であったり、筋力を要求するようなものは不適格である(筋力の使用は筋組織にFDGが集積するため検査結果に影響を及ぼします)。
実際には、動物に取り付けるテレメトリーのような、私自身が装置していることを意識しなくても実施できるような配慮が、実質的にも外観からも必要となる。あくまで検査が主体であることを自覚し、検査の障害にならないことをアピールできなければならない。患者は患者であり、何も特別扱いはされない。
*ここで使用するガイガーディテクタの通常と異なる点は、このセットは積算線量計で、常時は比較的低線量を計測対象とし、そのために消費電力を高効率化し、標準的にはセット全体で30μA以下を想定、電池もより安価で入手が容易なCR2032リチウムコイン型のものを使用しているが、数百μSv/h の計数(8000CPM以上)では、最大で全消費電流は60mA程度を見込む必要があり、CR2032ではなく、このセット本来のCR2477に変更した。
電池はカウンターの内部にあり、そのソケットは本来CR2477なので、あるべき姿に戻っただけです。CR2032から取り出せる出力電流はせいぜい5mA程度ですが、CR2477では50mA程度あり、電気容量は1Ahなので十分に目的は達成できそうです。もしCR2032のまま使用していたら、計測中途で、高電圧が十分に供給できなくなります。
製作記事
http://bb2.atbb.jp/geiger_dev/topic/28429#p5の小型携帯ガイガーの項
採用している小型高圧電源モジュールについての記事
http://bb2.atbb.jp/geiger_dev/topic/28436
この2013年11月のイベントでは、18Fの減衰カーブ取得以外に、PET-CTのPET撮影部分と、CT撮影部分がどのようなタイミングで行われるのか、対消滅γ線のスペクトル、線源とディテクタの距離ファクタによる分解能の変化などの取得を目標としましたが、このレポートでは減衰カーブの一部、撮影のタイミングとその被ばく強度に絞り、記述します。
PET部分の線量はおおよそ計算値程度に収まり、カーブの取得もできましたが、CT部分に関しては予想通り非常にX線量が高く、このセットではよりX線源近隣でのリアルな観測は困難であることがわかりました。その意味では、今回の計測そのものが予備実験と言えるかもしれません。
データの1次処理
ガイガーディテクタからの信号は、一旦汎用の録音装置に送られ、その場の音声とともに記録し、波形編集は音楽のみに特化しないフリーウェアとして名高いAudacityを用います。
処理の内容は、音声の聴き取りにより、そのときに起こっているイベントの確定(時間位置として、波形データに並列して「ラベル」を貼ることができる)し、ガイガーからのパルスを積分し、放射線量のグラフを得ることです。
録音したデータはステレオトラックですが、編集中のデータは上から;
- ○ ラベル1:イベント
- ○ 処理後のデータ:逐次の放射線量カーブ(積分による)
- ○ ガイガーからのパルス信号(L ch)
- ○ 周囲音声(R ch)(ただし聴き取りを容易にするため、ダイナミックレンジ圧縮、帯域制限などを行っています)
- ○ ラベル2:ダイジェスト版編集データ
- ○ ラベル3:検査開始からの時間
(注: いずれも計測を開始してから3時間5分までのデータ)
<イベントの解説>
グラフ一番上の尺が、記録が開始されてからの時間ですが、
○ 43分で18F-FDG(検査に使用するトレーサー)を静脈に注入しますが、そこから急速に検出カウントが増え始め、すぐに一定の値に達します。この部分最初のピークがおよそ500μSv/h(計測部位は腹部・・ピーク値は頭部)で、その後1時間安静にします。[Injection]
○ トレーサー注入後1時間で、体内器官には一定の集積があるので、CT撮影を行い、その後すぐにPET撮影に移行します。
CT撮影はテスト撮影15秒、本撮影約45秒をかけますが、この観測結果が示すようにCTのX線強度は一定ではありません。撮影末期ほど強度が大きく上昇しています。最後の最も高いところでは短時間ですが2Sv/hを超えているようです。その分鮮明な画像が得られるわけです。
○ その後30分かけてPET撮影を行いますが、身体のガントリーへの深度(ドーナッツ状の装置への入り具合)は数分おきにずらせていきます。このときには体外からのX線照射は無く、体内のトレーサーから出る対消滅γ線を周囲から計測するのみとなります。
このCTとPET撮影の間、計測装置は撮影の妨げとなるので体から取り外し、写真位置に置かせていただきました。頭部からガントリーに入り、足元位置にあたり、ガントリーからは約3m離れています。
また、身体・トレーサーからのγ線も足元からのものだけを検出することになるため、1時間40分から2時間25分あたりまで、18F-FDGの計測が途絶えています。
逆に、CTからのX線の照射タイミングがよくわかる結果になりました。
装置写真
GE社、CT部は8列スライス機(写真は受診している医療機関のHPから無断借用)
技師さんは私の要請にも快く応じていただき、当初は部屋の隅にでもと思っていたのですが、思いがけず特等席を用意いただけました。なぜ特等席かは、この位置はガントリー中心軸上位置にあたるため、回転しながら照射されるX線を大きな揺らぎ無く、適度に弱い状態で検出できるからです。
観測データからは、回転ごとに周期的にX線量が波打っていますが、もし中心位置でなければ、もっと大きく揺らぐことになります。
また、体から離しているので、大幅に計数率は低下していますが、その放射量がある程度わかっているので、そこからCT装置のX線強度が推定できます。ただ、X線管は指向性放射で、しかもガントリーの穴からこれだけ離れているので、正確な数値は先の予備計算以上のものは得られません。
逆にこれ以上ガントリーに近いと、SI-29BGの測定範囲をオーバーし、正常に計測続行できなかったかもしれません。
最良の位置を提供いただき、感謝します。
2時間25分から、体内のトレーサーからの計測は再開しますが、2時間40分から数分間、ふたたび計測が途絶えますが、これは検査着から私服に着替えるため装置セットを外しているためです。
これらの途切れはありますが、全体として、トレーサー注入以降、きれいに減衰カーブが取得できていることがわかります。
<編集したダイジェスト版>
このダイジェスト版はオーディオ信号としてSoundCloudで公開しています。また、この音データはMP3形式ですがダウンロード可能で、以下の分析を追実験することができます。
SoundCloud
https://soundcloud.com/yasushi-utsunomiya/luster-of-positron-pet-ct
WAVデータはこちら (zip形式 86.2MB)。
このグラフは、オリジナルの記録データから、注目すべき変化のある部分を編集抽出し、接続構成したものです。
全体は4部から成っています。
○セクションA:
検査シーケンスは、検査着への着替え⇒水の摂取⇒安静室説明⇒注射室でトレーサー注入⇒1時間の安静・・ですが、安静室説明以降の部分です。
注射室に入るまでは、放射線強度は、線量当量相当で、約0.1μSv/hで、ほぼ正常なBGで、安定しています。・・2分15秒まで
(パルス数から計測可能です)
(グラフ1番下波形は、逐次のカウント積分値を対数圧縮した表示で、きちんと計測レンジに入っていることが確認できます)
ところが、注射室へ入るとそれだけで数μSv/hまで計数率が上昇し、トレーサーに近付くだけ(部屋に入るだけ)でそれなりなことがわかります。・・・2分15秒から
注射針のセットに続き、先ず生理食塩水の注入が行われますが、このときに正確に静脈を捉えているか、異常がないかなどの確認を問診でも行い、引き続きトレーサーの注入が行われます。
注入は20秒程度(説明では2分)で終わりますが、トレーサー専用のタングステン遮蔽板で囲われた自動注入機で行い、スタッフは速やかに退室します。
計測データを見ると、約1分後には500μSv/h以上に達していることがわかります。
その後安静室へ移動し、横たわっているのですが、ダイジェストでは6分10秒でフェードアウトしました。
○セクションB:
安静室⇒排尿⇒手指洗い⇒計測室入室⇒セットを体から離す・・で、6分10秒から7分5秒。体から離すことで、計数値が低下する様子など。
○セクションC:
CT撮影⇒PET撮影・・ですが、CTの撮影は、比較的弱いX線出力で、前置撮影を行い、その後間があり、続いて本撮影に入っていることがわかります。
ガントリー(X線源)からは離れていますが、タイミングと相対的な強度はつぶさ観察できます。
波形を観察すればわかりますが、ガントリーから3m離れているにも関わらずCTの本撮影では、SI-29BGのガイガー管としての計数能力の限界に近いことがわかります。
トレーサーのみの正常な計数(ただし汎用の録音装置による記録)
CTによる強力なX線でほぼ飽和状態の計数波形
[波形解説]
ガイガー管の動作は、
X線入射
⇒相互作用による管壁またはカソードからの電子
⇒電子の移動による電路形成
⇒電路を引き金とした放電(ガイガーモードのガス増幅)
⇒クエンチング(ハロゲンガスによる電路消滅)
・・・が、1パルス(カウント)の起承転結で、次のカウントを行うには内部ガスが再び電離状態になるまで待たなければならない。つまり、ガイガー管にパルス電流が流れ(この時間は、ガイガー管固有のおよそ一定値)、その後にリカバリー時間(この間は放電できない・・これもガイガー管固有・・おおよそガイガー管の静電容量とアノード抵抗値で決まる)が必要なのであるが、放射線の入射が一定値を超えると、リカバリー部分が無くなり、漫然と連続放電するようになる。この状態が「気絶」とか「窒息」と呼ばれる状態で、上に示した波形の1番目でははっきりとしたリカバリ(立下り)が観測できるが、2番目ではこの状態の寸前であることがわかる。
データの2次処理
計測した波形の処理方法について⇒ データの2次処理 [別ページ]
読み取れる情報
PET-CT検査は、ネット上のサイトの多くにあるように、18F-FDG(陽電子放射崩壊するフッ素18でマークした代謝されず集積する糖質(FDG))を検査対象の静脈に注入し、集積した場所で陽電子を放射しますが、原子レベルの近隣の電子と対消滅し、対消滅した場所から、2つの光子(γ線:511KeV)を正反対方向に放射します。この正反対方向に放射されるγ線を周囲から観測する(同時タイミングで得られたγ線パルスは、確率的にその2つのペアであることから放射の中心位置が測量できる)ことで、放射中心が得られるため、FDGが身体のどこに多く存在しているかを見ることで、患部を特定できるわけです。多く集積するのは正常な脳、膀胱(排泄待ち)で、それに次ぐ集積は悪性腫瘍のことが多いという現象を利用しています。
計測のタイミングですが、専用の部屋でFDG注入(Injection)後、1時間できるだけ脱力安静で集積を待ち(暴れると筋肉に集積します)、その後PET-CT撮影装置(大きなドーナツ状で、ガントリーとも呼ばれます)に移動し、先ずCTを撮ります。(CTは身体の外からX線を照射し撮影)
その後30分程度PET撮影(PETは身体から放射されるγ線をもとに撮影)し、18F-FDGを注入後、2時間で検査施設の放射線管理区域から出ることができます。
前回の「番外」にもあるように、検査後検査施設から解放された時点での身体が発している放射線量は高く、頭部で310μSv/h、腹部160μSv/h、下腹部240μSv/h(今回の計測値:DP-5V/SIM-05による・・既知の絶対値指標)であり、単に数値だけ見ると信じられないほどの強度ということになります。個人的には、被験者を検査後数時間は隔離しておくべきと思います。
[減衰曲線が、半減期曲線と一致しない要因]
今回の計測は18F-FDGを注入以前から、注入後18Fの12半減期(1半減期=110分)以上を連続計測し、グラフ化することで、論理的半減期との相違や、その相違の生ずる要因の推測を目的としているが、12半減期分(26時間分)のグラフのアウトラインを示したい。
この2つのカーブは今回の計測結果の全体図を示したもので、上下はその表現が異なっている。異なる部分はグラフの縦軸で、上はリニアスケール縦軸(縦軸の線分が等差数列的なスケールを持つ)を、下は対数スケール(縦軸の線分が、単位長あたり等比数列・・dBスケール)となっている。
半減期は論理通りであるなら、横軸109分46秒毎に放射線量は半分になるため、縦軸の値も常に半分になり、リニアスケールでは減衰曲線となる。
しかし縦軸が対数(dB)スケールであるなら、縦軸の値は110分毎に6.0206dB(6dB)ずつ下がる、一定の傾斜の直線で表される。
*以降この傾斜直線を「論理的半減線」と呼称する
この直線表現が視認しやすく、また論理値からの相違の表れ方との関連が把握しやすいため、以降のグラフは縦軸が対数スケールのものを主に用いる。
次のグラフは1半減期毎(黄色縦線)、エネルギー積半分毎(黄色横線)のグリッドを追加したもの。橙色横線はおよそのバックグラウンド(BG:ガイガーディテクタの当地でのBGは、およそ0.1μSv/h)目安、または計測下限。
つまり、理論通りには、1半減期あたり、エネルギー積は-6dB、つまり1マスを左上から右下に直線的に(縦軸対数なので)リリースするはずである。
理論通りとは、
a) 放射線源とディテクタの距離が変化しない
b) 放射線源の移動が無い(原子総数が変化しない・・・生物学的代謝・排泄が無い)
c) ディテクタ(検出器)のエネルギー直線性が十分に良い
などを指す。
[減衰傾斜がより急傾斜になる要因]
PET-CT検査で18F-FDGは体内を巡り、脳、腫瘍、肝臓、膀胱に集積し、その後徐々に排泄されるため、論理的半減線よりも急な傾斜の直線となることが予測されるが、これは生物学的代謝による排出影響と総じることができる。
[減衰傾斜が、より緩やかになる要因]
より緩やかになる要因の主要なものは、ディテクタ(ガイガーミュラー検出器)の飽和特性によるものがあげられる。順当な飽和特性では、対数尺においておおよそ直線的に影響は現れる。
○実際に得られた減衰線についての所感
1) 予想よりも直線性の良い観測結果が得られた。
2) ディテクタの取り付け位置は、腹部に一定で比較的安定しているが、周期的に凹凸が見られる。これは排尿のタイミングとおおよそ一致し、凹部分では膀胱内のFDGは排泄され、一時的にディテクタへの放射線量が減少しているためと考えられる。
10半減期でおおよそBG(≒0.1μSv/h)まで減衰しているが、半減期逆算すると、10半減期=1024倍となり、FDGの排出が無いとすると半減期起点は102.4μSv/h と算出される。
(注:グラフでは-49dB(10半減期起点から見ると-61dB)をBGとしているので、1122倍)
既知の放射線量計との比較データ(FDG注入直後約500μSv/h、2時間経過後に300μSv/h)から、得られたカーブの修正ができるが、実際に得られたカウント積分値はBGの-49dBに対して-3dB、比率では46dB≒200倍に過ぎず、500μSv/hあるはずの部分がBGを代入すると20μSv/hにしかならない。半減期線よりも約15dB(1/5.6)も低く、実測値に対しては29dB(1/28)も低い値となる。
3) 典型的に「減衰傾斜が、より緩やかに」なっているのだが、その度合いは、BGに収束する時間で真値一致すると仮定すると、誤差は1時間当たり2.9dBずつ減少し、10半減期後にBGで0dB(1倍)に収束するといえるかもしれない。
計数の場合は、波形が重なることで計数ミスが生じるが、積分型の場合には重なりによる誤差はより小さくなる。このことから推論すると、一定のプラトー電圧を印加したガイガーミュラー管での検出の非直線性に由来する計数率の低下と考える。
ガイガーミュラー管では、さらに高線量では明確に「窒息」とか「気絶」と呼ばれる現象があるが、その様子は次項を参照下さい。
特別付属資料
<X線CTをガイガーミュラー管で計数するとどのような反応になるか>
(写真は受診している医療機関のHPから無断借用)
PET-CTでは、18F-FDGを注入し1時間経過したところで撮影されるのですが、その際に先にX線CT撮影を、後からPET撮影を行います。その様子は先のグラフにも表れているのですが、グラフはそのX線CT撮影時の部分を最大値として表示しています。しかしこのX線CT部分の数値は非常に不正確です。なぜならCT装置の足元にある台の上にディテクタを置いているために、私の身体からも、CT撮影部(ドーナツ型部分)からも2.5~3m(ただし足部分は近いが)も離れていて、CTからのX線の収束状態にもよりますが、実際の計数率は、相当に低くなっていると推測できます。
敢えて言うなら、ディテクタを体から離しているのですが、そのときの18F-FDGからの放射(FDG注入から1時間~1時間30分)とX線照射時の比率程度は読み取れそうです。
このときのX線照射時間は、2回合計で1分なので医療機関公式の照射強度20mSvを1分に換算すると、1.2Sv/hの強度ということになります。グラフからの読みではX線照射時の前後は-41dBなので112倍。
FDGからの放射を300μSv/hと見積もって、その112倍なので、33.6mSv/h相当にしかなりません。
BGが容易に計測できるガイガーミュラー管(計数率10~300cpm/μSv/h程度の)で、このような高線量を計測することが難しいことだけは明示的に理解できたのですが、やはり本当にμもmも付かないSv/hオーダーの照射があるのか気になるところです。
得られたカウントから飽和補正(確率論的に)することも可能なようですが、ここは旧ソビエトの知恵を借用したい。
旧ソビエトが開発したガイガー管は非常に多くの種類があり、ソビエト時代に形式認定があった有名なものだけでも次のサイトに掲載されているものがある。
http://www.gstube.com/catalog/9/
工業製品のひとつであるガイガーミュラー管は、現在のロシアでもあらたな開発や形式認定(その手続きや検査・規格化について知る機会があったが、それは別のテキストで)が行われている。
多くの品種がある理由の一つは、1本のガイガー管で幅広い範囲(0.1μSv/h~10Sv/h・・・10^8(10の8乗・・100000000倍)のダイナミックレンジを得るのではなく、計測対象により、異なる計数率のガイガー管を設定した方がより単純化できるという思想があるからのようです。
その中でも有名な比較的高線量に対応できるガイガー管として有名な品種に、SI-3BGというモデルがある。このモデルは有名なドジメーター(レントゲンメーター=ガイガーカウンター)であるDP-5Vの高線量を受け持つディテクタだが、公称計数率は1.29~1.93cpm/μSv/hとも言われ、この数値から見るとSBM-20の1/100程度のようだ。しかし、SI-3BGの出力パルスはSBM-20よりもはるかに時間幅が狭く計測上限は3Sv/hとも言われている。
(ガイガー管の計数率(実質の感度)は検出部分の容積におおよそ比例するが、SBM-20では7.1cc、SI-29BGでは3.8cc、SI-3BGではわずか0.0157ccにすぎず、このことからもSI-3BGが極めて低計数率(高線量向けモデル)であることが裏づけられる)
いささか大雑把なデータで到底定量とは言えないが、飽和が進んだ状態ではパルス波形は重なり、さらに高線量ではガイガー管を連続して電流が流れるようになる(パルスは出力されなくなる)ので、その波形を観察することで、おおよその照射量を推定できるわけです。
また前回のPET-CTでは足元の台にセットしたためどの程度の照射であったか推定も困難(しかし、飽和は免れた)でしたが、今回はガントリー穴部直近30cm(内部は撮影の邪魔になるためセットできない)での計測を行ってみた。
名称・型式 | 検出方式 | 計数率 | |
---|---|---|---|
1 | SI-29BG | ガイガー | 82cpm/μSv/h |
2 | SI-3BG | ガイガー | 1.5cpm/μSv/h |
3 | AtomSpectra | シンチレーション | 160000cpm/μSv/h 2.5inch X2.5inch CsI(Tl) |
設置は 1、 2 が照射部から30センチ中央、 3 は検査室の隅の脱衣籠の中で照射部からは約5mの距離。
図の最上部の時間尺を参考下さい。
以下の拡大図は41分の近辺のイベントについてのものです。
CTの撮影は、装置のドーナツ部分に内蔵された照射部、ディテクタをドーナツの内部で回転させながら行われますが、最初に位置決めなどのため回転せずに撮影します。回転しながらの撮影は造影剤の注入前と注入後の2回行われますが、その最初の部分の拡大で、約8秒間撮影します。
グラフは、上から 1 のSI-29BG、 2 SI-3BG、 3 AtomSpectraですが、SI-29BGは撮影開始後1秒で気絶しています。その後波状にカウントしていますが、これはCTが回転しながらの撮影であるためと考えられます。
SI-3BGはさすがに気絶はしないようで、最後までカウントを持続しています。AtomSpectraは撮影が始まると、部屋の隅に設置していたにもかかわらず、即座に動作不能に陥っています。
次に撮影開始から0.5秒の拡大
SI-29BGは最初はカウントしているものの、すぐにON期間の連続になりカウントできなくなっている。
SI-3BGは問題なく動作。
AtomSpectraはすぐに飽和し(おそらくシンチレータが激しく光っていると思われる)計数不能になっている。
SI-29BGとAtomSpectraは沈黙。SI-3BGのみ動作はしているが、各パルスが重なり明示的に飽和が近いことを表している。
さらにSI-3BGについて拡大。気絶には余裕がありそうだが、パルスは重なっている部分が多く、飽和しているようだ。
8秒の照射2回で30mSvに達するということは・・・・ OMG!