SIM-05「ナターシア」もやってきた!
2011_08_10 (C)Y.Utsunomia
*お断り*
この記事は、この機種の販売促進を促すものではありません。現在の流通価格は3万円弱と、十分に安いとは言えないからです。ウクライナではホームセンターや軍需品払い下げ店で、1万円以下で販売されているようで、それくらいで購入できるなら、超おすすめです。
また、この記事は、この機種を末永く使用するための参考や、改造の手助け、円滑な運用の補助として執筆されていますが、原則としてこの記事の利用者が受けた不利益を、筆者は保障いたしません。
*記述の誤りやご意見は、遠慮なくお寄せ下さい。ロシア語読めなくて困っています。
○序
7月3日のナデージア「DP-5V」に引き続き、妹のナターシアもやってきた。今回の命名は、購入前から決まっていた。
SIM-05を購入した理由は、DP-5Vと同じく、逼迫した当時の状況下にある旧ソビエトで、限られた材料と徹底した実用性の要求に応えるべく設計された1台が、この機であると思われるからだ。
また一般にはあまり市販されず、軍用として使用されていたらしいこと(この機も軍のストックであったらしい)くらいしかわかっていない。後継機に「プリピャチ」というモデルがあり、こちらの方が人気があり、また日本人割引もあるが、縁起でもない・・・。「プリピャチ」は名作で、多少の問題はありますが、正式に食品なども測定対象になっています。しかし現実の都市「プリピャチ」はチェルノブイリに隣接の原子炉労働者たちの町で、現在は誰も居住できませんし、立ち入りも許可が必要です。現在の日本ではプリピャチよりも高度に汚染された地域に住人が居住しています。
○プロフィール
事前の調査でわかっていることは、検出管にSBM-20 を2本用い、ハードロジックのみで、マイクロ・シーベルト毎時(本来の設計はミリ・レントゲン毎時であったらしい)直読表示とカウントを両立した表示系、一定被ばく線量に達したときのアラーム機能、低消費電力、サーチモードと数値計測モードを持つことなど。SBM-20を2本使用しているため、線量の変化に対して素早く反応する。また、検出可能線種はβ線遮蔽が組み込まれているために、γ線のみ。(β線遮蔽は2本のSBM-20に直接鉛板を巻きつけてあるだけ。管を取り替えるか、鉛板をはずすとβ線も、ボディーでかなり減衰する)
私好みのタイプだ。プロセッサによる数値処理もよいのだが、えてしてマイクロコントローラを主軸にしたタイプの高圧部分や、肝心の計数率そのものに対するつくりは粗末なものが多い。1カウント入魂だろう。ガイガーカウンターの能力は、結局はガイガー管の能力ですべてが決まる。表示のための数値処理などには、あまり興味がわかない。
(原則的に換算などの数値処理を経るごとに、情報は劣化していくし、元情報でのみ得られるものは多い。要はスッピンで・・・)
○到着
8月9日に注文品のSBM-20などのガイガー管とともに送られてきたが、予想に反し変わり果てたお姿で来日。元箱、マニュアルの一切、その他付属品一式が付属しているはずなのに、箱の中にはさっぱり見当たらないが、別便なのかもしれない(結局送られてこなかった)。
本体には操作系のスライドスイッチ(電源とモード切替の2つ)とアラーム設定ボリュームがあるが、スライドスイッチ・ノブの一つが行方不明。電池収納ボックスの蓋がきちんと閉まらない。よく見ると、スライドレール/ストップクリックノッチ部分が折れていて、その部品も行方不明。
それでも電池(006P 9V角型積層電池)を接続し、作動させてみるとなにやらカウント音と定期的(約20秒毎)に信号音が聴こえる。ランタンマントルを与えてみると、調子よくカウントアップし、いきなりアラーム音がけたたましく鳴り出す。どうやら生きているようだ。ようこそ日本へ!!
○音
常時カウントに対応したパルス音がポツポツと聞こえる。BGで平均40~50CPM程度。標準的なSBM-20の2本分よりもやや高い。数値測定モードでは約20秒毎にゲートタイムの終了(数値が出ましたよ~の合図)を示す発振音が、サーチモードではこのゲートタイムの間隔が2秒毎になる(カタログや事前に得た資料では、それぞれ25秒と2.5秒のはずなのだが)。サーチモードは同時に高線量モードでもある。
もし、入射した線量が、アラーム設定値を超えると、ゲートタイム終了音と同じ周波数のロングトーンが危険を知らせる。発音は、フロントパネル裏側に貼り付けられた、圧電スピーカーからフロントパネルに伝わった音で、スピーカー用の穴などは無い。
電源が入った状態では、音は常に出ていて、消音することはできない。また、音量を可変することもできないが、よく通るはっきりした音だ。(消費電力の多くは、この発音のために使われている)
○つくり
さっそくカバーを外し、内部点検。
分解は極めて容易で、電池収納部近くのネジを一本はずし、スライドスイッチ近くのノッチを軽く押せば裏蓋が開く。プラスティックの成型が悪いのはソ連の伝統だ。
ネームプレートは表に一枚(ドーズメーター、???「μSv/h」Jupiter SIM-05の表記)、裏面に2枚(1枚は主要諸元:?、?アラーム0.6-1.2-4各μSv/h、1μSv/hを100μレントゲン/hとする、2モード:25秒・2.5秒もう一枚に製造番号など)
写真2:SIM05内部
写真3:main
○表示装置
表示はソビエト製と思われる液晶セグメント表示器なのだが、7セグメント4桁+小数点+単位キャラクタが見える。しかし、うっすら見える単位キャラクタはミリレントゲンで、この機では表示されることは無い。
表示窓がぶよぶよに波打っている。ポリカーボネードかPETで窓を作ろうと思ってよく見ると、このぶよぶよに波打った樹脂板は、なんと偏光板ではないか!!
普段見慣れている液晶表示パネルは、偏光板は正面ガラスに貼り合わせてある。反射型では表に一枚、透過型では裏表に二枚使用されるが、偏光フィルター別体のものなんて'70年代に見たのが最後の記憶だ。この偏光板が無いと、表示は全く見えない。窓を硬質プラスティックで作る場合、このフィルターを内装しなければならないようだ。
追記)その後何台かのSIM-05を調べてみたが、1992年の末ころ以降のロットでは、現在普通に見かける偏光板内臓のディスプレーになっているようだ。
○数値表示の仕組みとアラームについては、下段に記述します。
○内部基板構成
内部は2枚のプリント基板で構成されていて、1枚は(下方)ガイガー管2本、高圧電源回路、クロック・タイミング関係、上1枚はカウンターロジック(汎用ロジックIC・・・C-MOSと思われるが、見たことも無い型番なので・・・本稿後半に互換表あり)と表示(各桁に2つずつ、同じ名称のICが4組ある・・・おそらく10進1桁カウンター、ラッチ付きセグメントドライバ)ロジックのように見える。
下1枚は高電圧を扱い、タイミング発生を行うことから、高絶縁とその安定が必要であるので、ワニスのような樹脂が重厚に塗布されている。ところが、上1枚の基板は、なにやら油状のものでべとついている。液晶表示部分の足がとくにひどいので、ハンダ付けのためのフラックスかペーストのようなものかもしれないが、取り除いた方が良さそうなので、とりあえず脱脂溶剤で慎重にふき取っていく。修理の痕跡かも。
どこかにICの互換表か規格表がないのだろうか。カウンターロジック周辺はおよそ機能は理解できたので、同等かそれ以上のものは簡単に設計できそうに思える。
おそらくTC5032(カウンター専用LSI)でアップグレードできそうなので作り直してみたくなる。
○ガイガー管
回路図が無いので詳細はわからないが、2本の管のアノードは独立した2本の抵抗で、カソードから共用の負荷抵抗を経由し、出力を取り出している。外来雑音の多い環境下で使用しても誤動作させないためのようだ。ちなみにプリピャチでは2本のガイガー管は完全に並列である。
回路設計として、ガイガー管をプリピャチのように単純並列とするか、ナターシアのように独立動作とするかは、意味も結果も異なっている。
ガイガー管の動作は、
①放射線入射→
②電離した内部ガスへの電路形成→
③微小な電流の発生→
④3をトリガーとした大きな放電→
⑤クエンチ(放電の阻止)
の順で動作するが、③の動作は比例計数管の動作、④はその増幅とも考えることができる。
③の動作は内部ガスが電離しさえしていれば起きる現象で、一般的に非常に小さい(nAオーダー以下)電流で、放電というにはあまりにささやかなものだ。
この現象を検出するには100倍から1000倍程度の増幅を必要とする。
逆に言えば、クエンチ(放電の停止動作)も不要で、検出後に見られる「不感状態」も訪れない。これは管内部の電離状態そのものは、微小放電では変化しないことを意味する。
④の動作は③をきっかけとした大きな放電で、ノンリニア動作(一定以下の微小放電は無視し、閾値以上の微小放電は大放電のトリガーとなる。③の動作との違いは、放電そのものの大きさで、放電の停止はクエンチガス(臭素やアルコールガス)の働きと認識されているが、実際には管に蓄えられた電荷(管は外から見ると、等価的にコンデンサに等しい:SBM-20で4.2PF)が使い果たされたときに放電停止する。クエンチガスで止まるのは、アノード抵抗で制限される充電電流のときに、放電維持できなくするだけだ。
ガイガー管が単純に2本並列に接続されているときに、どちらかのガイガー管に④の放電が起きると、放電していない管の電離電荷もともにこの放電に費やされる(4.2PF×2)。したがって、出力は2倍の大きさとなり、検出率も幾分増加する。しかし、2本の管の電離電荷は放電の瞬間に消費され、回復はアノード抵抗から充電が進み、管の両端の電圧が回復するまで「不感」状態となるが、アノード抵抗は管が2本になったからといって1本のときの半分にはできず、1本のときと同じ値にしなければならない。つまり1度ガイガー放電が起きると、1本のときの2倍のリカバリー時間が必要となる。また放電に伴うエネルギーは2回分になるため、管の寿命は半減する可能性がある。
この状態は一言で言えば、管の容積を2倍にした状態に等しいと言える。
一方ナターシア(Jupiter SIM-05)の場合は、2本のアノード部分が独立している。単純な2並列との違いは、片方の放電はもう片方の放電や電離や電荷には影響を与えない。つまり個々の管の動作は無関係で、出力は1本の場合と同じ、管容積あたりの検出率は同一となる。放電後のリカバリー時間は、1本のときと同一であるが、2本の管で同時に検出する確立は低いので、仮に交互動作に近い状態では、半分の不感時間ですむ。
つまり検出率そのものは1本のときと同一(ただし容積が2倍なのでカウント数は2倍)、リカバリ時間は半分と、1本の場合に比べて線量確定時間が半分、高線量時のリニアリティーは倍増することになる。
未確認ではあるが、鉛板を密着巻き付けすることで、コンプトン散乱によるβ線→γ線の変換効率が向上しているかもしれない。60Coなどの線源が手元にあれば、すぐに確認できるのだが・・・。
まとめると、プリピャチのような管の単純並列では低線量時の検出率向上(ただし高線量時にはリニアリティー、リカバリともに半減)、ナターシアのような独立並列動作では、高カウント、線量変化に対する高反応、高線量でのリニアリティーの向上など。
使用されているガイガー管は標準的なSBM-20で、特別な選別やバージョンでは無いようで、何らかの異常があった場合には即座に交換できるようになっている。
追記)軍納入品の場合、高計数率選別されているようで、それに合わせて校正されている。ゲートタイムの間隔で判別可能。後述
ソケットはDP-5Vなどと同じような基板直接付けのソケットなのだが、落下や振動で緩むことの対策なのか、ソケット部分に小さなウレタンゴムで管が外れないように補強対策されている。また、2段重ねの基板の表側はC-MOSロジックによるカウンタであるが、管とカウンタ基板の間に発泡スチロール(日本のスーパーマーケットで、魚や肉などを販売するときのトレーと同じ材質・厚さ)が挿入されているが、これはC-MOSロジックICを保護するためのもののようである。
管部分の基板は切り取られ、放射線入射の妨げや、絶縁不良がおきにくくなっている。しかし最初からγ線専用であるため、ケースにはβ線入射に対する配慮は無く、厚いプラスティック(補強リブ付き)とアルミニウムの分厚い名板が付けられている。管の鉛板を外すだけではβ線の入射感度は、あまり高くはならないようだ。ユニバーサルにβ線も検知できるように改造する場合、
(シーベルト取得時のみ鉛板を取り付けるような)ケースに対しても加工が必要どある(本来それはやってはいけないコト)。
追記)当初、前節のように考えていたが、複数のSIM-05の挙動や調整状態を追記調べていくうちに、次のようなことが判った。
SIM-05の計数率は、同年代のSBM-20単体の計数率のおよそ3倍に及んでいる。
この3倍という数値は非常に大きな改善で、標準的なSBM-20をSIM-05にマウントし計測してみると、およそ2倍弱であることなどから、鉛板による密着遮蔽によるγ線計数率の向上が1.1~1.3倍(これなら公称ゲートタイム25秒が説明できる)、管の選別によりさらに1.3倍以上(これでゲートタイム20秒)、トータルでSBM-20単体の2.2倍~3倍もの計数率を確保しているようである。
○使命
ナターシアは線量当量表示に特化したつくりになっているので、β線は最初から測定対象ではなく、検出管SBM-20そのものに薄い金属板が巻きつけてある。かなり柔らかい金属なので、鉛かその合金(ハンダ合金のような)のようで、厚さは薄い(0.1~0.2mmに見える)が7~8重に巻かれている。巻きつけ位置はSBM-20の内部のガラスブッシュにかかる程度で、両端の茶色絶縁樹脂には決してかからないように巻かれている。やはりβ線をブロックするには、ガラスブッシュの内側がすべて隠れればよいようだ。<放射線量計を作ろう、本編のSBM-20分解写真参照>
この機種が登場したのは90年初頭か92年で、チェルノブイリはその問題の根の深さが露呈し、ソビエト連邦は崩壊。DP-5Vなどの本来の軍用機は部品やつくりが良く、その分どうしても製造原価が高価になってしまう。ガイガー管そのものはそれほど高価ではないし(本来の話・・現在は高騰中)、国家的に統制された規格の中で大量に生産されるが、それ以外の部品はDP-5Vを見る限り、当時の日本円で15~20万円相当に思える。80年代末期にはこのような高価な製品を必要量だけ潤沢に製造することはおそらく困難で、機能を限定し、より実用的な小型軽量、低価格で、しかも特別な訓練がなくとも使用することができることが求められたのだと思う。実際にチェルノブイリの事故で、ソビエトは非常に多くの兵士と技術者を失っている。
DP-5Vは本体パネルやマニュアルにも注記してあるが、使用には一定の訓練が必要で、十分な訓練のできていない兵士には取り扱いが難しいばかりでなく、そのような未熟な操作者が取得した数値は、部隊を混乱に陥れる可能性すらある。
最大の問題点は、DP-5Vを数値計測モードで使用するには、確定に45秒かかることで、そのタイミング感覚やメーターの動きから傾向を読み取る力が必要とされる。サーチモードもプローブを移動させる早さや動きによって、見つかるものも見つけることができなかったりする。
また、この数値計測モードやサーチモードという切り替えスイッチがあるわけでもない。
ナターシアはガイガー管を2本にし、γ線専用として、しかも切り替えスイッチを高低の2段とすることで、数値の読み違いや致命的間違いが起きなくなっている。また独特のサーチモードの動きも、線量変化に鋭敏に反応することで、訓練を受けていない兵士にも容易にサーチや計測ができるように苦渋の考案がなされたものと思う。アラームを付けたこともその表れであるし、ヘッドホンが付けられず、常にカウント音とゲート音が鳴り、ときにアラームが鳴り響く。
おそらく訓練を受けていない兵士でも、これをポケットに入れ、活動を行い、アラームが鳴ったときに訓練を受けた者が状況を管理する・・・・ちょうど鵜飼のような使い方だったのではないだろうか。管理者が鵜匠、兵士が鵜のような。
訓練のできていない操作者の場合、ヘッドホンを忘れて現場に行くかも知れないが、ヘッドホンが無いとサーチモードは使用できない。ナターシアでは忘れようが無い。
ガイガーカウンターにはカテゴリーとして、サーベイメーターなのか個人線量計なのかが議論されるが、ナターシアはサーベイメーターのニュアンスが高いように思われる。
☆修理と改造1
○窓をつくる
表示液晶部分の窓に貼り付けてあった偏光フィルターを丁寧に外し、窓の内寸法に現物合わせで2mmPET板を切り出し、ケース内平面にフラットになるようにアクリレート系接着剤で、窓とケースを一体化する。
接着剤が十分に硬化したら、もとの偏光フィルターの端を粘着テープで仮止めしておく。いずれぶよぶよでない偏光フィルターと交換しよう。
○スイッチノブ
ノブを削りだしで作ろうと思ったが、ノブが無くても切り替えに支障は無い高さがあるので、ケース内部への異物の侵入を防ぐ程度の処理で良さそう。スライドスイッチのノブの根元に、ゴムシートを取り付け、隙間をなくすことでこの役目を果たさせた。(後日、SBM-20の梱包の中から、紛失していたスイッチノブと電池ボックススライドレールの破片が見つかり、オリジナルデザインに戻った)
○電池ボックス
電池ボックスの蓋は、本体のレールに沿ってスライドして開閉する。しかし、そのスライド部分のレールが本体と一体成型で、厚みが十分にとられていないため機械的に弱く、開閉の繰り返しで割れてしまうようだ。今回の購入に際して、発送前に検査しているらしいが、到着したものはこのスライド部分のレール部分が折損していて、蓋を閉めることができなかった。折損しているレールもすぐには発見できなかったので、やはりPET樹脂から削りだしでレールを作成し、本体のレールがあった部分にはめ込みで取り付け機能を回復。元の樹脂(スチロール系?)よりも曲げに対する強度がPETは高く、バネしろをとったので閉まり具合も良くなったが、何度か開閉しているうちに反対側のレールも折損。無理な力はかけてないので、おそらく強度設計が良くないのかもしれない。
反対側は、内側にスペースの余裕があったので、PET板を添え木状態で補強とし、接着する。どうも旧ソビエトの樹脂(あるいは金型)加工はよろしくないものが多く、作り直すことがしばしばある。
○高圧電源
発振周波数10~20Hzのリンギング・インバーター、一次側の尖頭値検出とカウント数からの電力補填型、平滑コンデンサ:0.01μF/630v、印加電圧:400V、アノード抵抗4.7MΩ(2本で独立)。より高カウントに対応するためと思われる。
○消費電流
全体での平均消費電流:0.7mA、 006P litium-ion220mAhで、314時間(推定)
*ただし検出数が上がると消費電流は増大。通常BG状態でも、消費電力の多くは音出力のために使用される。
☆表示の仕組み
ナターシアは、カウンターロジックのみで線量当量(μSv/h)を演算も行うことなく表示している。また、カウント(カウントについてで、積算カウントは不可)を行い読み取ることもできる。
カウンターロジックは周波数カウンターと同様に、カウンター→ラッチ(カウントした数値の保持)と表示、とゲートタイマーでできている。シーベルトへの変換は、別項「簡易換算」のように、コバルト60γ線1μSv/hの場合で、150.51カウント毎分(CPM)の検出がある(*1(ミリ・レントゲン[mR])=8.77(マイクロ・グレイ[μGy])=8.77(マイクロ・シーベルト[μSv]) で換算)。(と思っていたら本体裏面に100μR(マイクロレントゲン)=1μSv(マイクロシーベルトの表記があった)
したがって検出管が2本の場合はその2倍なので、コバルト60γ線1μSv/hで、301CPMの検出があることになる(ただし、管が2倍になっても正確に2倍のカウントではなく、2倍から7%減じた値になるという説もあるが・・)。
1μSv/hのときに、表示は1.00になればよいので、カウント数100に要する時間は、t=60(秒)×100(CPM)/301(CPM)≒60×1/3=20(秒)となり、ゲートタイム(測定する時間)の方を20秒に短くすることで、1μSv/hのときに100(1.00)を表示できるのである。(このゲートタイム発生は、高圧電源基板内で、アナログ的に発生させていて、その調整部分は半固定抵抗ではなく、固定抵抗をターミナルに半田付け(この抵抗の数値を変更することが校正・調整)している。
しかし、BG(自然放射能=バックグラウンド)は0.15~0.2μSv/h程度であるので、カウントも20秒で15カウントから20カウントとなる。20カウントとすると確度(確かさ)は22%であり、やはり低線量ではその程度の確度にしかならないが、同じ時間をかけた時に、カウントが2倍得られる意味は大きい。
長時間かけて確度を向上したい場合、20秒ごとに表示される数値は、そのままカウントなので、ゲートタイム音を20秒ごとにメモをとっていけばカウントも得られる。この場合、各ゲートタイム管に隙間時間や読み落としは無いので、そのまま連続した10回を書き取り平均化した場合、定確度計測と同等の確立確度で数値が得られる。
サーチモードとは、このゲートタイムを1/10(2秒)にして、表示桁を1桁落としたものが、その数となる。ゲートタイムが短くなり、頻繁に更新されることでサーチに対応できるということのようだ。このモードはサーチモードであるとともに高線量モードでもある。つまり最大999.9カウントat2秒で、999.9μSv/hとなる。仕組みがシンプルなので、間違いも入り込めないが、その線量でSBM-20は気絶しないのだろうか・・。そのように考えてみると、200秒のモードやノーゲートタイム(積算カウント)のモードが欲しくなる。この要求はまとめて改造案の材料としよう。
しかし、サーチする場合は、サーチモード表示よりも、普通に数値計測モードで音を頼りにした方が、より早くみつけ出せるであろう。
アラームはこのカウント表示とは別の方法で検出していて、一定期間の検出パルス密度が設定よりも上がったときに発せられ、その検出は下の基板(高圧電源、タイミング発生)で行われている。(おそらくアナログ的なパルス頻度と基準電圧(設定ボリュームによる)の比較で判断しているようだ。つまりカウンターをどのように改造しようと、アラームの機能は温存されるわけだ。
この配慮は、カウンターにアラームの機能を持たせた場合、万一カウンターが故障してしまうと、危険を知らせる重要な機能(数値よりも重要)が失われてしまうわけで、実際にそのような故障は起こりうることのようだ(下記参照)。
そのような緊急事態であっても、ナターシアはカウンターと独立したアラーム回路を持っているので、使用者は危険を回避できる。
アラームが鳴っているとき、電池の状態によっては正常にカウントができなくなる場合もある。これはアラームの消費電流が非常に大きくなり、カウント動作が妨げられてしまうからのようだが、ナターシアは全力で叫んで危険を知らせてくれているらしい。がんばれナターシア!
☆線量当量などの数値確定方法
ナターシアはガイガー管による「パルス出力→カウント」による単純な機構が特徴で、計算が必要な部分は「測定時間」を調整し、一次的な数値を確定している。しかし個々で得られた数値は、高線量状態での計測を除き、カウント数では10~20程度で、その場合の確度はおよそ30%程度となる。
このときに想定される数値のばらつきは、おおよそ2倍の幅(真値を15 カウントとすると、10~20 カウントにばらつく)になり、正確な数値を得ることは困難となる。
現在のガイガーカウンターの多くは、計測時間が経過するに従い、自動的に平均値をとるようにプログラム(プロセッサに)されているが、ナターシアでは単純なロジックとゲートタイマーのみから構成されているので、この作業は手作業
で行わなければならない。
このように書くと面倒に思えるが、ナターシアの回路では独自の工夫で、極めて効率的に確度を向上させることができるように設計されている。
その機構から推定される、「ナターシア用の記録用紙」を示してみたい。
Jupiter SIM-05 ナターシア 専用計測記録用紙
1__________ ナターシアでは20秒毎にゲート音が鳴り
2__________ 前20秒のカウントが表示される。
3__________ ゲート音が鳴る度に、表示数値を書き取り
4__________ 用紙に書き込むことを10回繰り返す。(電卓
5__________ に数値入力、「+」を繰り返してもよい。
6__________
7__________ 10マスが埋まったら合計し、「合計」に記入。
8__________ 一桁ずらせると(0.1倍すると)10回の平均
9__________ 値が得られる。
10__________ 同時に合計は200秒の総カウント数なので、0.3倍(60/200=3/10)でCPMが得られる。
合計______ ______μSv/h(合計×0.1)
CPM_______(合計×0.3)
単純に10回平均しているように見えるが、連続して10回記録すると、100カウントの定確度計測と同等以上の確度が、僅か3分20秒で得られる。
これはゲート毎に数を書き取っているだけなので、単純な平均と同じように見えるが、切れ目無く連続しているため、10回連続では200秒間連続でカウントしたことと同等になる。つまり1回毎の計測の切れ目では、整数を書き取っているのだが、小数点以下の連続も含めて10回なので、情報の欠落が生じないのである。つまり、通常のCPM取得では1分毎に整数として情報を取り出すため、小数点以下は切り捨て丸められるが、シームレスな連続計測では、そのような丸め込みが起こらないため、短時間で高い確度が得られるのである。
このような計測では、ゲート音毎に数値を読み上げ録音し続けておく(あるいは書きとめ続けておくような使い方も考えられる。
ナターシアでは一見便利そうな「平均化処理」は付いていないが、運用方法でそれ以上の確度と精度を容易に得ることができるように工夫されているのである。
**************しばらく経って****************
○大修理大会
ナターシアを導入した目的のひとつは、ワークショップでの実機の展示で、大阪・共立電子産業での講演時には手にとってみる方も多かった。購入した甲斐もあったと思っていたら、帰宅後電源を入れてみると、なんとカウントアップしなくなっているではないか!? γ線が入射すると、そのカウント音はするし、バックグラウンドではおおよそ妥当な検出回数でているようなのに、表示は、00.00→00.01→00.00→00.01・・・を繰り返している。ちょっと目を離した隙にナターシアは数も数えられないパー娘になってしまったようだ。トホホである。
であるにもかかわらず、アラームは正常動作している。使命は忘れていないところはさすがだ(ちょっと見直した・・)。
ああ、マニュアルもない、回路図もない、中のICはキリル文字のナンバーの振られた見たこともないチップのオンパレード・・・。もー~どうしよう。正常に動いていたときの記憶のみが手がかり・・。
救いは高圧電源とタイミング関係、ゲートタイマー関係が正常なことか。
前半でTC5032で新たにカウンターを作ろうか、なんて書いたのがマズかったか。
さらにその後、下から3桁目が常に2を表示するように・・。
その後ワークショップも忙しく、なかなかナターシアを構ってやる時間もなかったが、ツアーも一段落し、不憫なナターシアが訴えるのです・・。
その後自宅にも違法Wi-Fiアンテナを設置、やや離れたところにあるスタジオに置いたルータと、速度は遅いながらも何とか通信できるようになったので、早速、回路図またはIC互換表を求めてネットサーフ。その結果、以下に有力情報を見つける。
http://www.glaeserium.de/html/su-cmos.html
と
http://translate.googleusercontent.com/translate_c?hl=ja&prev=
/search%3Fq%3DSoviet%2Blogic%2BIC%26hl%3Dja%26client%3Dfirefox-a%26rls%3Dorg.mozilla:ja:official%26channel%3Dnp%26biw%3D986%26bih%3D619%26prmd%3Dimvnsb&rurl=
translate.google.co.jp&sl=en&twu=1&u=http://ganswijk.home.xs4all.nl/chipdir/soviet/index.htm&usg=
ALkJrhgnWLHX2pWCeP6028ZQF00XfvBEpw
この2つのサイトでは、一部の情報が一致しないが、ナターシアに使われている大部分のICについてC-MOS 4000シリーズ互換であることが判明した。
ナターシアに使用されているICについては一覧を作ったので、最近出回っている同様の機種を(スカンジナビア商会扱いSC-05なども同等)お持ちの方は修理の際には参考にされてください。
キリル表記 転置キリル文字 ナターシアでの使用個数
CD C-MOS
K176ИД2 K176ID2 4543 液晶用7セグドライバ、ラッチ、decoder 4
K561ИЕ14 K561IE14 4029 Bin/BCD up/down カウンタ プリセッタブル 4
K561ИЕ16 K561IE16 4020 14段 bin ripple counter 3
K561ТР2 K561TP2 4043 quad NOR R/S latch 1
K561ТМ2 K561TM2 4013 dual D FF 1
K561ЛП2 K561LP2 4030 quad excl OR 1
K561ЛП13 K561LP13 ??? MC14266 3input AND 1
K561ЛА7 K561LA7 4011 quad NAND 1
K561ТЛ1A K561TL1A 4093 quad schmit NAND 2
しかし4000シリーズも、もはや風前の灯。
すべての互換性を確認したわけではありませんが、液晶ドライバ4543とカウンタ4029は全交換した後に快調になったので、この2品種では完全に互換性があるようだ。
品種が確定できたことは、交換修理ができるだけではなく、使いかっての改造(あえて改良とは言わないが)や機能の追加ができることを意味している。例えば4029のクリア端子(1番端子)4543のラッチ端子(同じく1番端子)もラッチ禁止にするとノーゲートモード(積算線量モード)になるし、この2つの端子に適切に信号を送ることで、外部ゲートにすること(例えばキッチンタイマーで指定した時間ゲートするなど)ができる。
また、ノーゲートにして4029のキャリー出力(桁上げ信号:7番端子)から出力をとれば、それはカウント10、100、1000、10000なので、定確度計測用の出力端子として使用できる。拡張の夢が広がるではないか。
ちなみに4029の9Vでの最大カウント速度は、最低3MHz程度なので、分では3000000×60(秒)×0.2(ポアソン過程考慮)=36000000CPMと、カウント読み落としは十分に無視できる速度。
さて、夢は広がるが、改造以前に壊さないように、故障ロジックICを交換しなければならない。
ところが、4029、3個と4543 4個は液晶表示器の裏側にあり、半田面から半田を吸い取り機で除去するには、一旦液晶表示機を取り外す必要があります。しかし、液晶表示器は50ピンもの足があり、抜き取ろうにもその足はロジックICの隙間にあり、容易には作業できそうにもない。また、基板はガラスエポキシ両面スルーホールだが、どれくらいの熱・機械強度があるか不明。液晶表示器も壊したくないが、基板のランドパターンを壊しては元も子もない。
このような場合、カウンターロジックIC(4029)は壊れていることがはっきりしているので、ICを壊しながら作業を進めると、安全に確実に作業を進めることができる。
写真4:SIM-05 set 3
写真5:SIM-05 counter norm
○先の薄いニッパー(このような作業に向けて、グラインダなどで薄刃ニッパーを作っておくと作業が能率よくできる)で、足をICのモールド部分根元で切り落とす。その際に基板に無理な力がかからないように、丁寧に作業。
写真6:change IC
○残ったICの足を1本ずつピンセットで掴み、半田ごてで加熱し、力をかけないように抜き取っていく。
○ICの足が入っていた穴に残った半田を、半田吸い取り器で除去する。
写真7:SIM-05 set 1
○基板上に残ったフラックスや汚れを、アルコールなどの溶剤で、丁寧にしっかり拭き清める。
○新しいICの足を、基板から飛び出さない長さに切り縮め、基板に挿入する。
(このときに足の間隔を十分にフォーミングしておかないと、挿入できない)
写真8:SIM-05 set 2
○ICの上から、半田付けしていく。半田の流動性を考慮しながら、十分に過熱する。
(端にレイアウトされている、よく見えるところの端子で、どれくらいの加熱で十分ハンダが入るか、確認しながら、残りのハンダも付ける)
*改造については後日に記事にします。
画像1:回路図1
画像2:回路図2
画像3:オリジナル回路図
写真10:SIM05_disp1
写真11:SIM05_HV_bd